トランプ政権は「脅威排除」「軍事力弱体化」「米国の安全確保」を掲げてイランと戦争したが、実際には目的を達成できず、軍事力の限界と戦略目的の不明確さが露呈した。戦争は米国の利益にほとんど寄与せず、むしろコストが増大した。
1. 米国の目的
・目的の多様性と矛盾
-政権は「自衛」「核拡散防止」「テロ対策」「地域安定」「軍事力破壊」「解放戦争」など多様な目的を掲げたが、整合性がなく、国家戦略文書(NSS)とも矛盾していた。
・戦争前の説明不足
-トランプは戦争前に国民へ十分な説明を行わず、議会・世論形成も不十分だった。
・トランプの主張の矛盾
-トランプは「核計画を2025年に消滅させた」と主張しつつ、「イランは再開しようとしている」と矛盾した説明を行った。
・脅威の列挙と「急迫した脅威」の欠如
-トランプは1979年大使館占拠や1983年ベイルート爆破など過去の事件を列挙したが、差し迫った脅威の証拠は示さなかった。
・軍事目標の列挙
-ミサイル破壊、海軍壊滅、代理勢力弱体化、IED脅威排除、核武装阻止などを挙げたが、実現性や優先順位は不明確。
・レジームチェンジ(体制転換)示唆
-トランプは「自由の時が来た」と発言し、体制転覆を暗に促した。
・国防長官の4目標
-ヘグセス国防長官は「ミサイル破壊」「生産破壊」「海軍破壊」「核武装阻止」の4点を公式目標としたが、政権内で整合性が取れていない。
・ホルムズ海峡封鎖で新たな目的が発生
-イランが海峡を封鎖したため、米国は急遽「海峡再開」を最優先目標に変更。これは戦争が自ら作り出
した問題である。
2. 目的達成度
・ミサイル破壊:達成失敗
-米情報機関評価では、ミサイル70%残存、地下施設90%再稼働。空爆は限定的効果しかなく、ロシア・
中国の支援で再建が加速。
・核開発阻止:状況は変わらず
-核施設は主要攻撃対象ではなかった。情報機関によれは、核能力は昨夏と「ほぼ同じ」と評価。強硬派
が台頭して核武装論が強まった。
・海軍壊滅:正規海軍は破壊したが、革命防衛隊海軍の非対称戦力は健在
-革命防衛隊海軍の高速艇・沿岸ミサイルは残存し、海峡封鎖能力は維持。
・体制変換:逆効果
-ハメネイ殺害後、息子モジュタバと革命防衛隊強硬派が権力を掌握し、体制はむしろ強化され、反体制
派の機会は縮小した。
・代理勢力弱体化:米国の利益は限定的
-ヒズボラ・ハマス等は弱体化したが、米国の安全保障への直接的利益は小さい。
・ホルムズ海峡再開:唯一の交渉目標に
-停戦交渉は「海峡再開」だけが焦点となり、他の目標は棚上げ。戦争前より悪い状況に陥った。
3. 戦争の合理性
・戦略的合理性が欠如
-核阻止:既に2025年攻撃で損害を与えていたため、追加戦争の必要性は低い
-ミサイル:米本土への脅威は10年先
-海軍破壊:非対称戦力には無意味
-体制変換:計画性がなく、代替案も不在
4. コスト
・人的コスト
-米軍戦死者13名、負傷380名
-イラン民間人1,700名死亡(子供250名)
・軍事コスト
-直接費用29〜50億ドル
-中東基地の大規模損害
-ミサイル・迎撃弾の在庫枯渇(トマホーク1,000発以上)で台湾・第一列島線の抑止力が低下
・経済コスト:史上最悪のエネルギーショック(1973, 1979, 2022年を合わせた以上)
-ガソリン $2.98 → $4.49(53%上昇)
-インフレ再燃(CPI 3.8%)
-利下げ不能 → GDP成長率低下
-肥料・ヘリウム供給危機
-世界企業への損害25億ドル以上
・外交コスト
-湾岸諸国との関係悪化
-欧州・アジアはエネルギー危機で不満
-米国の信頼性低下
・国内政治コスト
-世論は反対多数
-トランプ支持率低下
-中間選挙で共和党不利
5. 結論
・米国は主要目標を達成できず、コストだけが膨張。戦略的破綻であり、国益を損なった戦争だった。
“Is the Iran War Worth It? Weighing the costs and benefits of the U.S. decision to go to war Grand Strategy,”(By Michael Cohen and Will A. Smith May 29, 2026 The Henry L. Stimson Center)