トランプ大統領は、3月4日、連邦議会で行った施政方針演説で就任から43日間で100本近い大統領令に署名し、米国史上最も成功した期間だったと「成果」を誇った。軍高官の交代もこの「成果」に含まれるのだろうが、海事関係では中長期的に重要となりそうな大統領令が準備されていることが報じられている。

 米国海軍協会ニュース(USNI News)が入手した「造船業を再び偉大にする(Make Shipbuilding Great Again)」大統領令草案(2月27日付)がそれで、概要は以下のとおりだ。

 トランプ政権は、政権当局者に対し、中国の突出した造船能力に追いつくべく米国の海事産業を刷新するための海事行動計画(a maritime action plan)を今後6ヶ月間で作成するよう求めている。

 草案に添付されるホワイトハウスのファクトシートは、「米国は常に海洋国家であったが、今日、中国の造船部門は不公正な非市場慣行を通じて世界市場での支配的地位を確立し、米国の造船業界の200倍以上の生産能力を生み出している」とし、大統領令によりホワイトハウスの国家安全保障会議内に新たな海事産業基盤事務所(a new maritime industrial base office)が設立され、この取り組みを主導することになる。

 草案によると、米国通商代表部(USTR)や国防総省、商務省、国務省、運輸省、国土安全保障省の各長官を含む複数の閣僚は、大統領令に署名してから6カ月以内に大統領に行動計画を提出することになっている。

 行動計画には、①中国の「海上物流および造船部門に対する不公平な標的化」の調査、②今後9年間の造船資金インセンティブ計画に資金を投入できる海上安全保障信託基金の創設、③造船投資を促進するための海事機会ゾーン(maritime opportunity zones)の創設など、幅広い項目が含まれる。

 その他、国土安全保障省に対しては外国貨物に港湾維持税を課すこと、イーロン・マスク氏が率いる政府効率化省(DOGE)に対しては、国防総省と国土安全保障省の調達プロセスを評価しより良い調達方法の提案を行うことを求めている。

 この大統領令にはまた、潜水艦のコスト上昇に取り組むための海軍が作成した計画である、「造船所の説明責任と労働力支援の提案(the Shipyard Accountability and Workforce Support proposal, SAWS)」と同様の文言も含まれている。海軍は昨年このSAWSを提案したが、バイデン政権の行政管理予算局は拒否し、議会も2025会計年度国防権限法に付随する文書のなかで海軍の提案に関する透明性の欠如を批判し棚上げしたものだ。

 SAWSが適用されれば、海軍は契約未了の艦船建造資金を使って造船所で働く人々の賃金を引き上げることができるとされている。大統領令により潜水艦、無人システム、水上艦艇プログラムの遅延とコストの増加を評価するために、新たに45日間の造船所の監査が開始される。

 草案の段階では、海軍や造船業界に具体的にどのような影響が出てくるのか分からないが、改革のチャンス到来と見ている関係者もいるようだ。だが、新たな「大統領令の嵐」が来るのは間違いなさそうだ。

参考資料:Mallory Shelbourne, “Trump’s ‘Make Shipbuilding Great Again’ Order Calls for Wholesale Overhaul of U.S. Maritime Industry,” (March 5, 2025 USNI News)