1月3日12:40頃(現地時間)、中華電信(台湾最大の電気通信事業者)は基隆沖で海底通信ケーブルが切断されたと海巡署(日本の海上保安庁に相当)に通報。海巡署では野柳(Yehliu)沖を航行中の貨物船「Xing Shun 39」(タンザニア船籍、香港船社保有、3,000重量トン)を特定し巡視船を派遣し、調査のために基隆港に戻るよう命じたが韓国の釜山に向け航行したため、台湾当局は韓国当局に釜山での調査協力を要請した。

 海底ケーブルは、船舶の錨やトロール漁により世界中で年間何十回も誤って切断されているが、故意に錨を引きずることで複数の海底ケーブルやパイプラインを切断できることも調査結果から知られている。今回のケースではフィナンシャル・タイムズ紙が同船の航跡データを公開しており、台湾の北端沖で複数の海底ケーブルルートを数日にわたって縦横無尽に横断したことが明らかになっている。

 バルト海では、過去15カ月間で3隻の商船が長距離にわたって錨を引きずり、沿岸国間のケーブル6本以上とガスパイプライン1本を切断したとされている。この3隻は事案の前後にロシアに寄港し、うち2隻は中国との関係を持ち、1隻はロシアの「影のタンカー船隊」に属していたことが明らかになった。そして、これら事案の少なくとも1件は、ロシアの諜報機関との関係が疑われていることをEUの安全保障筋がウォール・ストリート・ジャーナル紙に語っている。

 台湾の市民防衛団体「Kuma Academy(黒熊学院)」のマルコ・ホー・チェンホイ(Marco Ho Cheng-hui)最高経営責任者(CEO)は、中国が船を使って台湾の海底インフラに損害を与えてきた長い歴史があると台北タイムズ紙に語った。彼は、今回の「Xing Shun 39」が関与した事案は、中国が国際的な反発を引き起こすことなくどの程度の海底破壊工作を実行できるかを調査する目的で行ったのではないかと語っている。

 2001年2月には上海沖300kmで日米中台光ケーブルが切断され台湾のインターネットが一時途絶したり、2023年2月には台湾の海底ケーブルが過去5年間で20件超の切断等の故障を起こしていることが新聞等で報道されてきた。台湾は国防白書などでグレーゾーン事態に対する警戒感を示してきたが、バルト三国などと同様に海底インフラに関する安全保障上の懸念がいよいよ現実のものになってきたといえるのではないか。

参考資料:“Chinese Freighter Suspected of Severing Telecom Cable off Taiwan,” (Jan 5, 2025, The Maritime Executive)