12月25日、インド企業運航のクック諸島籍タンカー「Eagle S」がフィンランドからエストニアへの海底ケーブル他を切断した。フィンランド当局は国防軍ヘリも使って拘束、乗船検査を実施しているが、過去1年間でバルト海で発生した3件の切断事故で初めてのケースとなった。
同船の最後の寄港地はロシアのウスチルーガであり、AISの記録では海図に示された海底ケーブル上で減速し旋回した。この際に錨を用いてケーブルを切断したとみられており、フィンランド沿岸警備隊の巡視船「トゥルヴァ(Turva)」が国防軍ヘリも用いてフィンランド領海内で停船させ拘束するとともに乗船検査を行った。税関当局は貨物の詳細も調査している。ウスチルーガはG7の制裁により制限されたウラル原油の積み出し港であるからだ。ちなみに「トゥルヴァ」は11月の「Yi Peng 3」事案にも対応している。
「Eagle S」はインド企業がロシア、インド、アラブ首長国連邦間で運航していることが判明しており、「影のタンカー船隊」の一隻とみられている。船齢18年の同船は過去の検査で防火扉やオイル漏れ、複数の警報装置の故障など33件に及ぶ深刻な問題を指摘されており、匿名で保有されているクック諸島籍の老朽タンカー26隻(うち4隻は制裁対象)と関係していること等から同インド企業が管理している7隻のタンカーとともにロイズリストの「ダークフリート」リストに載せられている。
今回切断されたのは、フィンランドからエストニアへのFingridのEstLink 2 DC送電ケーブルに加えヘルシンキとタリンの間でElisaが運用する海底ケーブル(ヘルシンキからドイツへのCinia海底ケーブルとヘルシンキとタリン間のCitic海底ケーブル)である。EstLinkケーブルは、本年1月には内部短絡で数ヶ月断線していたがバックアップ電源の容量は十分にあり、停電が一般消費者や企業の電力供給に直ちに影響することはない。また、インターネットも一時的に通信速度が低下することがあってもすぐに他のケーブルに迂回措置がとられるとしている。ただしケーブルの完全復旧には冬のバルト海の天候が大きく影響するだろう。
バルト海で発生しているこれら「破壊工作」は、3年に及ぼうとするウクライナ戦争下での計画的なハイブリッド戦の一環なのか単発的サボタージュの積み重ねなのだろうか。フィンランド当局は「加重犯罪的いたずら(aggravated criminal mischief)」として取り扱おうとしているようだ。海底ガスパイプライン「ノルトストリーム」破壊(2022年9月)以降、NATOが共同パトロールを強化してきたが、今回のフィンランド当局の対応でようやく実効性が見えてきたということだろうか。
参考資料:
“Finland-Estonia Power Cable Goes Dark, Prompting Sabotage Concerns,” (Dec 25, 2024 5:05 PM by The Maritime Executive) “Finnish Police Carry Out Tactical Boarding of Suspected Sabotage Ship,” (Dec 26, 2024 3:29 PM by The Maritime Executive)