米中の対立は台湾だけでなく、アメリカの「裏庭」といわれてきた中南米でも厳しくなっている。中国資金による巨大なチャンカイ港(100万TEU/年)が11/16に完成したことは既に取り上げたが(「中南米へ伸びる中国の「一帯一路」」、11/22投稿)、これに対抗する形で、米国は同日、ワイニーメ港(カリフォルニア州)とペルー北部のパイタ港が姉妹港湾となることをアジア太平洋経済協力フォーラム2024で発表した。

 同港はペルーの貿易貨物量の約10%を取扱い(65万TEU/年)、農産物輸出の主要港であり米国からの輸入品の玄関口となりうる戦略的に重要な位置にあり、これにより米国は南米における権益を強化し、中国の影響力への対抗の一助とすることが期待できる。(TEU:20フィートコンテナ換算)

 米国がこのような政策を強化し始めたのは、米国国家安全保障戦略(2022年)で「西半球ほど米国に直接影響を与える地域はない」としているものの、ラテンアメリカ・カリブ海地域(LAC)における米国の地域覇権国としての地位が中国によって損なわれる恐れがあるからだ。

 中国は、LACへの経済的関与を強める一方で、港湾や衛星地上局など軍民両用(デュアルユース)インフラにも投資を行ってきた。今や中国が所有あるいは運営権を握る港湾が域内に点在し、現地政府もアクセスしにくい衛星基地局がアルゼンチンやキューバに設置され、域内独裁政権には中国製武器が供給されている。懸念されるのは、台湾侵攻などのアジア太平洋地域での有事において米軍の作戦行動が阻害され、LAC諸国が中国の立場を支持するようになることだ。

 そもそも中国にとってLACが重要なのは、食料や天然資源の供給源として欠かせない存在であることだ。ブラジルだけで中国の食料輸入の23%、大豆に限れば60%を占めている(2022年)。チリとペルーで銅の輸入量の半分(2022年)、チリとアルゼンチンでリチウム輸入量の98%となっている(2024年)。

 さらに中国は、台湾侵攻などに際して、デュアルユースインフラへの投資とキューバ、ニカラグア、ベネズエラなど反米勢力への支援によりLACへの水平(地理的)エスカレーションを起こせば有利な立場に立てることを認識していると思われる。

 そのような水平エスカレーションリスクの最大のものは、域内港湾とパナマ運河の支配と考えられる。中国はLACで少なくとも12の港湾を所有あるいは運営しており、これにはパナマ運河の両端にあるバルボア港とクリストバル港が含まれる。有事にこれら港湾の機能を停止させ、パナマ運河の通峡を阻止すれば世界的サプライチェーンに大打撃となるばかりでなく、大西洋と太平洋間での米海軍戦力の移動がマゼラン海峡経由となり、初動作戦が大きく阻害されるのは間違いない。さらに海底ケーブルに対する破壊工作により、世界中のインターネットを混乱させることも懸念される。

 第二のリスクとして、域内のデュアルユース衛星基地局を用いた開発中の極超音速滑空体の運用が考えられる。これにより南方から米国を攻撃する態勢がとれるようになり、北方への対処を主とする米国のミサイル防衛網を突破できる可能性が高まる。さらに、全地球的な衛星情報の把握が容易となり中国の対衛星攻撃能力の向上が図られる可能性も高い。

 第三のリスクは外交上の影響力を行使し、LAC諸国の政治姿勢を自国に有利に形成することだ。特に台湾を承認している域内7ヵ国はその対象となる可能性が高く、台湾侵攻に際してこれら諸国の孤立化を図るだろう。その他の諸国に対しては、主要な貿易相手国としての「経済的威圧」も駆使しながら、積極的支援でなくても中立的、傍観者的態度を取るように行動する可能性が高い。

 これらリスクを軽減させるために冒頭のようなLACにおける「対中カウンター投資」が行われているわけだが、今後アジア太平洋地域全体の観点から日本を含む関係国が経済面だけでなく安全保障面でも本地域への関与を強めて対中抑止力の一翼を強化してゆくことが必要となるだろう。

参考資料:”Peru Becomes New Center of Rivalry Between the U.S. and China”, (Nov 16, 2024 3:53 PM by The Maritime Executive), “To Prepare for a Pacific War, U.S. Must Harden Southern Flank,” (Nov 16, 2024 3:57 PM by CIMSEC)