欧州連合(EU)は、黒海における海上安全を確保し地域の経済発展と安定を支援するため、新たな「黒海海上安全保障ハブ(Black Sea Maritime Security Hub)」の設立を呼びかけた。これは、ロシアの拡張主義や、イランや中国などの地域との関係を拡大しようとする取り組みに対抗するため、ヨーロッパ共同体と南コーカサスおよび中央アジアとの間の拡大した関係を構築しようとする戦略の一部となるものである。
EUは、ロシアのウクライナ侵略により生じた沿岸国海域の機雷や不発弾などが海上安全保障に深刻なリスクを及ぼしており、これらは戦闘行為の停止後も続くことから、新たな取り組みが必要としている。「EUは、加盟国、黒海沿岸のパートナー国、同志国、パートナー組織との協力を強化することにより、黒海を機雷のない海域に変えることを約束する」と宣言している。
EUは、黒海の海上安全保障はあらゆる協力分野にとって不可欠であり、貿易を支える輸送回廊の発展には航行の自由と海運の安全確保が不可欠であるとしている。また、ウクライナが穀物やその他の貨物の安全回廊の設置に成功していることに注目し、この地域での同様の取組を推進することを目指している。
この計画では、ハブの設置場所には言及していないが、監視活動を通じて海底ケーブル、ガスパイプラインや風力発電設備などの状況を把握するとともに、ロシアの「影の船隊」タンカーにも焦点をあてることになろうとしている。
EUは、ウクライナ、モルドバ、グルジア、トルコ、アルメニア、アゼルバイジャンとのより緊密な協力関係の構築を目指しており、黒海地域におけるその役割と責任が増大しているとしている。また、ウクライナ、モルドバ、グルジアがEU加盟に関心を示しており、既に加盟しているトルコとより協調的なアプローチを発展させようとしていると指摘している。
EUは、黒海地域の戦略は、安全保障の強化、持続可能な成長の促進、環境保護の促進に重点を置いていると述べている。「海上安全保障ハブ」に加えて、輸送、エネルギー、デジタルネットワークのための地域情報共有とネットワークを開発するための取組みを強化するとともに、戦争関連の環境被害と気候変動の危険にさらされている沿岸コミュニティに対する支援も求めている。
「今日、我々は黒海のための新しい戦略を採択する。これはEUにとって非常に戦略的に重要な地域であり、ロシアが領空を侵犯し、港湾や航路を機雷で攻撃しているなか、この取組は地域の安全保障の改善のための最前線である」と、欧州委員会のカヤ・カラス外務・安全保障政策上級代表兼副委員長は述べている。
黒海地域の課題に対処するための広範な戦略を提唱していた欧州委員会委員長たウルズラ・フォン・デア・ライエン氏は、計画の発表にあたり、「EUは地域の安全と安定を促進するために隣国と協力する」と述べた。次のステップとして、欧州委員会は、協力を進めるためにパートナー国との閣僚会議を提案している。
参考資料:”EU Plans Black Sea Maritime Safety Hub Seeking to Build Regional Relations,” (Published May 28, 2025 2:03 PM by The Maritime Executive)