台湾周辺で中国軍が大規模な軍事行動を行っている。台湾メディアは、1996年の第3次台湾海峡危機以来「最大規模の軍事行動」と伝えている。中国国防省の報道官は、「演習を行うか、またいつ行うかについて、我々は必要性と情勢に基づき自主的に決定する」と述べたが(13日)、事実上の軍事演習である可能性が高い。

 頼清徳総統がマーシャル諸島、パラオ、ツバルを訪問し、ハワイとグアムにも立ち寄ったことに反発した動きとみられるが、これら太平洋3カ国はローマ教皇庁と並んで台湾を正式に承認している世界の12カ国に含まれており、中国は台湾独立の動きと自らの西太平洋戦略への影響について反発・警戒しているのだろう。

 今回の「演習」では、東・南シナ海や台湾海峡に7カ所の「留保空域」が設けられたが、11日朝までの48時間に延べ100機の中国軍機が確認され、このうち39機が事実上の中台境界線とみなされる台湾海峡中間線を越えた。また、海上においては日本列島から台湾、フィリピンを結ぶ「第一列島線」周辺に海軍艦艇約60隻、海警局船艇約30隻を展開し、その数は1996年以降最大規模であるとされる。

 今回が、今年5月と10月に行われた大規模演習と異なるのは、作戦内容だけではなく演習実施の発表など中国側の宣伝がないことである。これは、台湾側の不安を誘う「心理的揺さぶり」と考えられ中国が展開している対台湾心理戦の一端を示すものだろう。

 ちなみに過去2回の大規模演習を振り返ってみると、5月の大規模軍事演習は、中国が「独立工作者」として敵視している頼清徳政権の発足に合わせて軍事的圧力を強めたもので、台湾本島に加えて金門島や馬祖列島などの離島も取り囲むように演習海域が設定された。

 また、2018年に武装警察部隊に編入され軍との合同訓練を重ねてきた上法執行を担う海警局も動員した。グレーゾーン事態で重層的に台湾を封じ込めようとしているのだろう。この演習後、呉江浩駐日中国大使が、座談会で「中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば、日本の民衆が火の中に連れ込まれることになるだろう」などと発言したのも記憶に新しい。

 10月の演習では、総統府がある台北や、基隆、高雄、台中など主要な港湾や空港を有する都市の沖合に演習区域を設定し、重要港湾と地域の封鎖・制圧を狙い、1日当り過去最多となる中国軍機の活動も確認された。国防部の報道官はこの大規模演習は、「台湾独立勢力を震え上がらせ、国家主権と国家の統一を守るための正当で必要な行動だ」と主張した。また、空母「遼寧」を台湾東部沖に配置して戦闘機の発着艦を繰り返したが、これは台湾有事に来援する米海軍部隊への対処を想定したものと考えられる。

 ちなみに12/5現在の米空母打撃群の配備状況は米海軍協会HPの「Fleet Tracker」によればカールヴィンソン空母打撃群がフィリピン海で行動している。

 本年3回行われた大規模演習を分析すれば、増勢著しい中国人民解放軍の台湾有事における作戦・戦術がかなり明らかになるのではないだろうか。日米共同作戦策定の大きなヒントになることが期待される。また、トランプ次期大統領は習近平国家主席を来年1月の大統領就任式に招待したと報道されているが(11日)、今後、様々な形でなされることになる米中の主導権争いは注目だ。