ウクライナでのロシアの戦争努力は、ロシアの軍事産業が西側の制裁と人手不足に阻まれ前線の弾薬需要に追いついていないことから、海外からの武器支援に大きく依存している。ロシアの輸入業者のうち2社は、その輸入ルートの一部を海上輸送に依存していることが知られている。
北朝鮮からのルートは、羅津港からウラジオストク近郊のドゥナイ港に弾薬を海上輸送し、そこでロシアの鉄道網に積み込まれている。このルートを通じて北朝鮮は、約1,000個のコンテナで122mm砲弾と152mm砲弾を月に約30万発輸出しているとみられている。輸出量は増加しており、現在ではミサイルや装甲車両も含まれている。様々な見積もりがあるなかで、ウクライナ軍事情報部(GUR)は、北朝鮮の弾薬がロシア軍の所要量の50%をまかなっている可能性を指摘している。
イランからの輸入の主力は無人機であり、戦場に大きな影響を与えている。その他に122mmと152mmの弾薬も含まれているが、イランはアゼルバイジャンを経由してチェチェンに至る鉄道ルートに頼ることができないため、カスピ海のバンダル・アンザリ(Bandar-e Anzali)港とアミラバード(Amirabad)港を経由して、ダゲスタンのカスピスク(Kaspiysk)港かオラヤ(Olaya)のヴォルガ・ドン(Volga-Don)積替え港に海路輸送している。
1月2日には、イランのソーシャルメディアでバンダル・アンザリの埠頭で積込み前のイランの防空システムとトラック搭載型Fath-360戦術弾道ミサイル(M142 HIMARSに匹敵するとされる)の画像(出所は不明)が公開された。いうまでもなくロシアの戦争努力にとって極めて重要な兵器である。
ウクライナにしてみれば、弾薬が戦場に届けられ分散・防護される前に海上輸送中の貨物の状態で攻撃する方が、はるかに費用対効果が高い。ウクライナは、昨年11月6日、カスピスクでロシア海軍フリゲート「タタルスタン(F691)」と「ダゲスタン(F693)」に無人機攻撃を仕掛けることで、既にカスピ海の船舶を攻撃する能力を実証している。
さらに12月23日には、ジブラルタル海峡を通過した直後のロシア軍の重量物運搬船「ウルサ・メジャー」がオラン沖で沈没した。この件にウクライナが関与したとの証拠は何もない。しかし、ウクライナはスーダン、ニジェール、マリに配備されたロシア・アフリカ軍団の傭兵に対する攻撃やシリアでシャーム解放機構(HTS)部隊に無人機支援を提供するなど、様々な実績がある。
北朝鮮やイランからの海上輸送に攻撃を仕掛けることやタルトゥースからのロシア軍撤退に伴う兵器の海上輸送に対する攻撃は、ウクライナにとって優先度が高いとみられるが、技術的には容易ではない。しかし、これまでのウクライナ軍の示した能力をもってすれば可能であり、必要な資源投資に対して高いリターンを得られるだろう。
さらに、ロシア自身がバルト海の海底ケーブルに対する破壊工作を行なっているとの疑いが浮上している今、ウクライナに秘密の技術支援と支援を提供することをいとわない国が増えていても不思議ではない。
「The Maritime Executive」の無署名の記事は大要以上のとおりだ。ウクライナは黒海において無人船による攻撃で大きな戦果を得ていることから、今後の展開によってはありうるシナリオかもしれない。トランプ次期政権発足を前に停戦交渉の可能性もあるなか、ロシアの軍事物資の海上輸送に対するリスクはかなり増大しているようだ。
参考資料:”Risk Rises for Russian Military Cargoes at Sea,” (Jan 5, 2025, The Maritime Executive)