ルッテNATO事務総長から、足を引きずって帰宅している壊れた潜水艦とコメントされた改良型キロ級のロシア潜水艦「ノヴォロシースク(Novorossiysk)」。この潜水艦は9月下旬に西地中海で機械的な故障に見舞われ、今月初めから浮上したまま地中海からバルト海へ帰投中だ。

この事案は地中海におけるロシア海軍のプレゼンス低下を露呈している。2024年にシリアのタルトゥース基地を失い、ボスポラス海峡を通る移動制限に直面して以来、ロシアの地中海兵力はほぼ消滅している。

ロシアの地中海常設タスクフォース

ロシア海軍は、2013年にシリアのタルトゥースに拠点を置き、潜水艦やフリゲート等からなる「常設タスクフォース」を配備した。このための潜水艦は、黒海と地中海の間で潜水艦の移動を制限するモントルー条約を回避するためにメンテナンス航海の解釈を拡大して、近傍の黒海艦隊から展開されることが多かった。

タルトゥース基地には、潜水艦が最長1年間ローテーションするのに十分な施設があった。非常に重要な修理船「PM-82」が長期間そこに拠点を置き、現地でのメンテナンス支援を提供した。2022年までタルトゥースには定期的に2隻以上の潜水艦が派遣されており、2022年のウクライナ侵攻開始時には2隻が停泊していた。

しかし、ロシアのウクライナへの全面侵攻により、トルコはボスポラス海峡をロシア海軍の軍艦や潜水艦に対して閉鎖した。これは、以前に給油と整備サービスを提供していたキプロスへのロシア軍艦の訪問禁止と相まって、地中海におけるロシアのプレゼンスにとって大きな打撃となった。

地中海におけるロシアの足場は大幅に弱体化

そして2024年3月、黒海におけるウクライナの水上ドローン(USV)の脅威により、それまでの黒海からの補給ルートをはるかに長いバルト海航路に変更せざるを得なくなった。しかし、最大の打撃は2024年12月、シリアのアサド政権の突然の崩壊だった。これにより、ロシア海軍はタルトゥースから追い出され、潜水艦「ノヴォロシースク」は、2025年1月2日にジブラルタル海峡を通過して地中海から去った。

シリアを失って以来、ロシアは地中海での潜水艦の配備を維持することがますます困難になっている。配備艦はバルト海から片道4,000kmの航海をする必要がある。これにより、地中海での運用日数が制限され、乗組員に負担がかかり、整備スケジュールを圧迫していることは間違いない。

潜水艦哨戒は継続しているが、弱体化している

「ノヴォロシースク」は2025年6月下旬に航洋タグボートを伴って地中海に帰還した。報道では、同艦が北アフリカの港に寄港し、少なくとも1回は専門的なメンテナンスを受けた可能性が高いという情報があるが、現地の支援ネットワークが不足しているのは間違いない。

一方、ロシアの潜水艦艦隊、特にディーゼル潜水艦キロ級はメンテナンスの遅れに悩まされているようだ。黒海に残っている潜水艦(「ロストフ・ナ・ドヌ(Rostov-on-Don)」は度重なるミサイル攻撃によって無力化された)とバルト海の潜水艦で10隻以上を保有しているにもかかわらず、不運な「ノヴォロシースク」にすぐに交代できる艦はない。

ロシアは依然として原子力潜水艦をそこに配備することができ、潜航したまま航行し、予告なしに海域に到着することができる。2022年からヤーセン(別名セヴェロドビンスク)級原潜が、時折地中海に進出していることが知られているが、これらもまた確実に継続的なプレゼンスとはなっていない。

ロシアは地中海に戻るのか?

現時点で、潜水艦の配備は実質的な作戦兵力というよりも、見せかけのものであるように見える。しかし、ロシアは、より強力な部隊の拠点を確保し、NATOの兵力を南正面に拘置するために、基地を再建する可能性が高い。その基地はリビアにある可能性があり、トブルクが有力な候補地である。

新しい基地の設置には時間がかかり、ある程度の建設工事が必要になる可能性がある。おそらく最初の兆候は、ロシアの貨物船かバルト海から出航する修理船になるだろう。現時点で地中海に向かっている潜水艦の兆候は見られないため、「ノヴォロシースク」の代わりに地中海に潜水艦を配備するのに時間がかかるだろう。

ロシアの潜水艦戦力、特に最新の原潜を過小評価すべきではないが、キロ級は限界を示しており、ロシアは地中海における永続的なプレゼンスを失っている。これは1隻の不幸な潜水艦の話ではなく、ロシア海軍の能力の「穴」が拡大していることを示しているのだ。

参考資料:”Russia’s Submarine Problem Is Much Worse Than Many Imagine,”(Published on 15/10/2025

By H I Sutton, Naval News)