トランプ米大統領は8月1日、核武装した敵対国間の戦争のリスクに関するメドベージェフ元ロシア大統領の発言を受けて、原子力潜水艦2隻を「適切な地域」に配置するよう命じたと発表した。
アナリストらは、トランプ大統領の動きはモスクワとの修辞的なエスカレーションだが、米国がすでにロシアを攻撃できる原子力潜水艦を保有・展開していることを考えると、必ずしも軍事的なエスカレーションではないとみている。
メドベージェフ氏は7月31日、トランプ氏がメドベージェフ氏に対して「言葉に気をつけろ」と言った後、ロシアがソ連時代の最後の手段の核攻撃能力を保有していることをトランプ氏は覚えておくべきだと述べた。
「ロシア元大統領ドミトリー・メドベージェフの非常に挑発的な発言に基づいて、私は、これらの愚かで扇動的な発言がそれ以上のものになる場合に備えて、2隻の原子力潜水艦を適切な海域に配置するよう命じた」とトランプ大統領は1日のソーシャルメディア投稿で述べた。
同氏はさらに、「言葉は非常に重要であり、意図しない結果につながることが多い。これがそのような例の1つにならないことを願っている」と付け加えた。
その後、記者団からなぜ潜水艦移動を命じたのかと尋ねられたトランプ大統領は、「ロシアの元大統領が脅迫をした。我々は国民を守るつもりだ」と述べた。
米海軍と国防総省は、トランプ大統領の発言や潜水艦が移動したかどうかについてコメントを控えた。米軍が核抑止におけるデリケートな任務を負っているため、米潜水艦の配備と位置について議論することは極めてまれである。
トランプ大統領のコメントは、プーチン大統領との3年以上続いたウクライナ侵攻の終結交渉に失敗したことにトランプ大統領が不満を募らせており、ワシントンとモスクワの間の緊張が高まっている時期に発表された。
米国科学者連盟のハンス・クリステンセン氏は、爆撃機と陸上ミサイルとのいわゆる「核の3本柱」の一部である米国の原子力潜水艦は、常にロシア国内の目標に向けて核武装ミサイルを発射する位置にあったと指摘した。
米国は合計14隻のオハイオ級原子力潜水艦を保有しており、それぞれが最大24発のトライデントII D5弾道ミサイルを搭載でき、最大4,600マイルまで複数の核弾頭を発射できる。核脅威イニシアチブ軍備管理グループによると、一度に8隻から10隻のオハイオ級潜水艦が配備されているという。
ロシア安全保障会議副議長のメドベージェフ氏は、ロシアが2022年にウクライナに数万人の軍隊を派遣して以来、クレムリンで最も率直な反西側タカ派の一人として浮上している。クレムリンを批判する人々は、彼を無責任な「緩い大砲(思ったことを何でも話す人)」だと嘲笑しているが、一部の西側外交官は、彼の発言はクレムリン中枢の政策決定グループの考え方を反映していると考えている。
トランプ氏とメドベージェフ氏は29日、ロシアがウクライナ停戦に同意するか、関税を課されるかに「今日から10日」あると述べたことを受け、ここ数日、罵倒しあっている。
クリステンセン氏は、トランプ大統領はロシアとの緊張がさらに高まった場合、核兵器に訴える可能性があるという憶測を煽り、「コミットメントの罠」を作っていると述べた。
それでも、マケイン研究所の事務局長で元国防総省高官のエブリン・ファルカス氏は、これが核紛争につながる可能性があるという考えを否定した。
「それは本当にシグナルの交換だ。これは核対立の始まりではなく、誰もそれをそのように解釈していない。そして、ロシア人もそうではないと思う」と彼女は語った。しかし、トランプ大統領の行動がロシアにウクライナでの方針転換をさせる可能性は低いと付け加えた。
ウクライナ和平に関する独自の条件を定めているロシア政府は、トランプ大統領の10日間の期限である8月8日を遵守する兆候を示していない。
プーチン大統領は1日、ロシア政府はさらなる和平交渉を望んでいるが、戦況はロシアに有利だと述べた。同氏は期限については言及しなかった。
トランプ大統領は過去にプーチン大統領との良好な関係を宣伝していたが、ロシア指導者に対する不満の高まりを表明し、同指導者を「でたらめ」と非難し、ロシアによる最近のウクライナ攻撃は嫌なものだと表現している。
参考資料:”Trump Orders Nuclear Submarines Moved After Russian ‘Provocative Statements’,”(Reuters, August 2, 2025)