ウクライナは、戦場におけるドローンの使用において迅速性、革新性を発揮してきたが、それは陸戦だけでなく海戦にまで広がっている。歴史上ほとんどの海戦で、より大きい艦隊が勝利してきたが、ウクライナは今のところそのパラダイムを変えており、海戦の未来を変化させているといえる。
ウクライナ海軍の教訓
開戦時、ウクライナは、2014年にロシアがクリミアを併合したときに艦隊のほとんどを失ったため、海軍は事実上存在しなかった。そのため、ウクライナは海上ドローン、沿岸配備の対艦ミサイル攻撃、空爆などの非対称戦術をとるしかなかったが、そのおかげで、黒海の戦場を一変させ、ロシアを撤退させ、ウクライナ沿岸の主要海域の戦略的支配権を取り戻した。
もともとウクライナは、開戦以前から海軍力ではロシアに太刀打ちできないことを認識し、沿岸ミサイルシステム、小型艦艇、航空支援に焦点を当てた非対称戦略を採用していた。2022年以降、ロシアとの兵力差を埋めるため攻撃兵器として海上ドローンが追加された。ウクライナは現在、USVの「艦隊」を中心に海軍を再構築しており、海上ドローンを海洋戦略の中心に据えている。ロシアがウクライナの港湾を封鎖しようとした際には、海上ドローン攻撃で迅速に対応したし、ロシア海軍が占領下のクリミアから安全な本土の港に撤退した後も、ウクライナのUSVは艦隊に嫌がらせと損害を与え続けた。
2023年の海上ドローン攻勢を受けて、「我々は、アジンコート(百年戦争でイングランドの長弓隊がフランスの重装騎兵を破った)や真珠湾のようなゲーム・チェンジャーに似た軍事革新の岐路に立っている」との指摘もされた。高価な有人水上艦艇は、今や安価なドローンによる存亡の危機に直面している。ウクライナは2023年8月、「黒海とアゾフ海に、これ以上安全な海域や平和な港はない」と警告を発したが、ロシアは最終的にその警告を受けて、ウクライナのUSVの脅威から避退した。ウクライナの非対称的な勝利により、ロシア艦隊は黒海東部への避退を余儀なくされ、封鎖が解除され、重要な穀物輸出ルートを再開できたのだ。
ウクライナのUSVは、前例のない戦果も挙げた。2025年1月までに、熱探知対空ミサイルを装備した改造型「マグラV5」USVが、クリミア沖でロシアのMi-8ヘリコプター2機を撃墜し、3機目を損傷させた。2025年5月、ウクライナは、それぞれ約30万ドル相当のAIM-9サイドワインダーミサイルを装備した数十万ドルの海上ドローンを使用して、それぞれ5,000万ドル相当のロシアの戦闘機2機を撃墜して世界を驚かせた。ウクライナは海戦のルールを書き換えているのだ。
これらのドローンは多機能に進化している。ウクライナは、これまでのUSVをロシアの沿岸目標に向けて自爆型FPVドローンを発射できるドローン・キャリアに改造した。また、最新の海上ドローンの1つは、最大4機の一人称視点(FPV)ドローンに加えて、機雷を搭載できるため、複雑な多段階攻撃が可能になっている。
ウクライナの国防情報局(HUR)は最近、自国の海上ドローンが1トン以上の爆薬を搭載し1,000キロメートル(約621マイル)を超える距離で運用できるようになったとし、「ヴォロシースク港近くの海域でロシア黒海艦隊を完全に封鎖し、ロシア艦隊はもはや公海に出ることができない」と発表した。
「マグラv5」や「Sea Baby」などの価格は約25万ドルで、これらが挙げた戦果に比べると安価だ。黒海西部からロシア海軍の標的がなくなったため、一部のウクライナのUSVはFPV母艦に移行し、クリミアの複数のレーダーと防空システムへの攻撃を成功させている。
海上ドローンはロシア艦隊に対するウクライナの最も効果的な兵器の1つとなっており、ロシアの艦艇を21回攻撃し、10隻の艦艇が破壊され、他の数隻が深刻な損傷を受けたことが確認されている。この結果、ロシア海軍は海上での主導権を失い、現在では占領下のクリミア半島のセヴァストポリ港とロシア本土のノヴォロシースク港付近での作戦活動に大きく制限されている。このおかげで、ロシアが合意から離脱したにもかかわらず、ウクライナが穀物回廊を再開し海上貿易を効果的に回復させることができた。
一方のロシアは、セヴァストポリ湾などの主要な場所を中心に、海上ドローンを特定して破壊するために設計された長距離、中距離、短距離の探知ゾーンを含む多層システムを構築した。これにより、ウクライナのドローンは以前ほど簡単にセヴァストポリ湾に入れなくなったという。これに対応して、ウクライナは、より高度な兵器とモジュール設計で無人システムのアップグレードに取り組んでいる。ロシアは艦艇を引き揚げたためウクライナの海上ドローンの成功率も低下しており、ロシア艦艇は、USVの夜間攻撃に対処するためサーマルビジョンシステムを装備している模様だ。ロシア軍は独自のUSVを配備し始めており、海軍の無人機戦争は、徐々に対称的になりつつある。
海は非常にダイナミックな環境であるため、堅牢で信頼性の高いシステムを設計することはより困難な領域だ。しかし、人員に制約を受け無人システムに依存せざるをえないウクライナは、巧みにコスト効率よく作り上げ、それゆえに大部分が使い捨てになっている。現在はテクノロジーの洗練度よりも、数量とコストのほうが重要である。
黒海での戦争は、非対称的なイノベーションがパワーバランスをどのように変えるかを示している。伝統的な艦隊を持たないにもかかわらず、ウクライナは低コストで適応可能な技術を使用して、優勢な海軍に大きな打撃を与えた。ロシアは港湾防護のためのバリアを設置することを余儀なくされており、それは比較的効果的だった。しかし、ウクライナは、海上ではロシア艦艇に損害を与えることができることを示した。将来的には、安価なドローンと高価な艦艇のコストの非対称性により、成功率が低くても、ロシアを含む海軍に大きな損害を与えうることが証明され、強力な海軍を持つことの利点はいくらか減少する可能性がある。しかし、ドローンだけで海上ドメインを完全に管制することは不可能であり、バランスの取れた海軍は依然として不可欠だろう。今後、ウクライナの将来の艦隊は、エイダ級コルベット、ミサイル艇、沿岸防衛システムを組み合わせる可能性が高く、海上ドローンは引き続き主要な攻撃力として機能するだろう。
適応性とテクノロジー
ウェストポイントの現代戦争研究所は、中国とロシアはともに小型ドローンの分野で急成長している一方で、米国は氷河期のようなペースで動いていると指摘している(2024年3月報告書)。ウクライナに焦点を当てたベンチャーキャピタル会社Green Flag Venturesの共同設立者であるデボラ・フェアラム氏は、「私はまだ、西側諸国は戦争がどれほど変化したかを本当に理解していないと思う」と述べた。彼は、戦場での急速な技術進歩、大量生産の増加、そして500万ドルの戦車を破壊できる500ドルのドローンなど、効果的な兵器のコストの低下を指摘している。
現在、米海軍は、ウクライナ海軍のドローンの成功や紅海のフーシ派のような非対称的な脅威からの教訓に後押しされ、無人システムを緊急に受け入れている。ウクライナはすでに人工知能(AI)と緊密に連携しており、特にドローンや地上プラットフォームのマシンビジョンを通じて、現代の戦争を急速に再構築し、自律的なターゲティングを可能にしている。ウクライナはこの変革の最前線に立っており、AI軍事技術の90%以上が国内の開発者から提供されている。
ウクライナはイノベーションを防衛戦略の中心に据え、自国の技術を活用して戦場で優位に立とうとしている。同国のデジタルトランスフォーメーション大臣であるミハイロ・フェドロフ氏は、「ウクライナでは、ウクライナで作られたイノベーションで戦っている。それは絶え間ない作業であり、継続的な研究開発プロセスであり、コンポーネントの物流上の問題を解決し、5歩先の解決策を探すことだ。ウクライナは、すでにあらゆるイノベーションにとって最高の研究開発センターとなっている。今日、我々はテスト用の技術を手に入れ、明日はそれを何百倍にも拡張するだろう」と述べている。
ウクライナの防衛技術セクターは、戦争のプレッシャーの下で急速に発展しており、ドローン、ロボット工学、AI、電子戦、地雷除去システムなどの戦場でのイノベーションを推進している。政府が防衛技術イノベーションを支援する「Brave1」のようなプラットフォームは、資金提供、テスト、合理化された認証を提供することで、欧米で一般的な遅い調達システムを迂回して、有望な技術を迅速に導入している。
戦争の経済学
現代の戦争は今や経済性と規模の戦いであり、主要な指標はもはや兵員の数ではなく、配備されたシステムのコストと量である。1,000ドル未満の安価な片道ドローンは、ウクライナや他の場所での戦闘の中心となり、はるかに高価な標的を破壊することができるようになった。
米軍の支配は長い間、戦車、ステルス戦闘機、航空母艦などの高価なプラットフォームに依存してきた。一人称視点のドローンは、そのモデルを逆転させ、安価でスマートなネットワーク化されたマシンを使用して、従来の軍産複合体に挑戦する。米国が高コストのシステムに依存し続ける中、中国、ロシア、さらには非国家主体のような敵対国は、大量生産された安価なドローンやミサイルを活用して、わずかなコストで莫大な損害を与えている。
空母「ジェラルド・R・フォード」が130億ドルと高価であり、他のプラットフォーム、例えばF-35は、1機あたり8000万ドルから1億ドルの費用がかかる。米国がそのようなシステムを構築している間、中国は、これらの大規模なシステムを大量に破壊できる安価なシステムに焦点を当ててきた。さらに、紅海では米海軍が100万ドルのミサイル2発を使用して、それぞれわずか4万ドルのフーシ派の無人機を撃墜している。つまり、無人機のコストは、それを破壊するために必要なミサイルの価格の約2%に過ぎないということだ。
台湾は注目している
台湾は最近、台湾海峡の海軍防衛用に特別に開発された初の無人水上艦(USV)である「エンデバーマンタ」を発表した。CSBC社によって建造されたこの船は、群れ作戦用に設計されており、軽魚雷と自爆用の弾頭を搭載でき、自律航法、AIターゲット認識、およびハイジャック防止機能が含まれている。ウクライナによる海軍ドローンの使用に触発されたマンタは、低コストの非対称戦争を通じて中国の軍事的優位性に対抗する台湾の広範な戦略の一部であり、現代の紛争でドローンを戦力増強手段として使用するという世界的なトレンドに加わるものである。
台湾はすでに米国の支援を受けており、独自の先進防衛産業を持ち、水上と水中の両方の海上ドローンをテストしている。例えば、台湾の水中ドローン「スマートドラゴン」は、魚雷システムを装備していると報じられている。ウクライナの海上ドローンの開発の次のステップの可能性は魚雷を組み込むことだが、機会と必要性が生じれば、ウクライナは台湾と軍事技術を売却または交換するかもしれない。
中国とロシア
ロシアは、海軍のドローン戦ではウクライナに大きく遅れをとっているが、新しい海軍ドローンである「Murena-300S」を発表した。航続距離500kmの高速でコンパクトなUSVは、偵察、機雷敷設、攻撃作戦などの沿岸任務向けに製造されており、おそらく大きな爆発物ペイロードを備えている。
ロシアはウクライナとの非対称戦争から厳しい教訓を学び、迅速に適用している。海軍内に無人システム連隊を創設し、空中、地上、海上のドローンを統合して、すべての艦隊で偵察と攻撃任務を遂行している。オーラン、ランセット、FPV、USVなどのシステムを装備したこれらの新しいユニットは、海軍の無人コンポーネントのバックボーンを形成することが期待されており、ヨーロッパ、太平洋、カスピ海、ドニエプルの海軍全体で展開が計画されている。
同時に、ロシアはAIを活用した自律型ドローンの群れの開発に向けて着実に進んでいる。ロシアは、安価でスケーラブルなドローン技術を活用して敵を圧倒することに力を注いでおり、これは海上作戦にも適用可能だ。中国は今年初め、潜水艦から発進し、空中と海を何度も行き来し、元のプラットフォームに戻ることができる世界初の空中および水中ドローンを発表した。
NATOの将来への備え
中国は巨大な製造能力と軍事化された民間インフラにより、商船の軍用転用や米国よりはるかに高速の巡航ミサイルの生産など、全面戦争の準備を進めているようだ。
戦争は急速に進化し、アルゴリズムと適応性の戦いへと発展している。もし欧米が、大規模で展開が遅いシステムを構築するという旧来のモデルにしがみつくと、10億ドル規模の軍艦が、その数分の一のコストで海上ドローンによって撃沈されるリスクがある。新たな時代では、スピード、スケール、ソフトウェアが、戦場の支配者を決定する。2022年にロシアがウクライナに侵攻したとき、戦争がこれほど急速に進展し、ドローンが空を支配するようになるかについてロシアは備えていなかった。
現在、ウクライナは、15,000人の最前線のドローンクルーからフィードを収集・分析するOCHIシステムを通じて、200万時間を超える膨大な戦時ビデオデータセットを蓄積している。このデータは、ターゲット認識、兵器の有効性分析、自律型ドローン戦術など、戦場でのAIのトレーニングに使用されている。
ウクライナはすでに海上ドローンのAI技術の構築にも取り組んでいると考えられている。特に、2024年12月31日にロシアのヘリコプターに対する海上ドローン攻撃の成功では、AIが標的の識別とミサイル誘導のために使用されたと推測されている。
NATOは、これらのモデルの開発についてウクライナと緊密に協力し、将来の紛争に展開するための独自の自律型海上ドローンを準備する必要がある。ウクライナの戦場でのイノベーションに触発された英国製の「Kraken3」が最近発表され、AIを活用した群れ機能、自爆型ドローンの発射、GPSを使用しない航行機能が展示され、ウクライナの成功がすでにNATOの調達に影響を与えている。
NATO自体も無人海事能力の拡大に着手しており、最近では、サボタージュを抑止し、監視のギャップを埋めるために設計されたイニシアチブである「タスクフォースX」を通じて、バルト海で自律型水上艦艇を実証している。しかし、これらの海上ドローンは、ロシアの破壊工作の脅威に対処することに焦点を当てられているため、中国が台湾を封鎖した場合など、敵の軍艦を無力化するためには、より実用的なドローンが必要である。
高価なシステムでは、もはや役に立たなくなる。安価でスケーラブルなソリューションこそが、NATOに必要なものだ。米国では海戦の変化に対応するために、例えばAnduril社は、AIを搭載したモバイル海底センサーノードのネットワークである「Seabed Sentry」を発表した。これは、持続的な監視と海中キル・チェーンのために設計されたものだ。
リトアニアは、1機のマグラ型USVをリトアニアの防衛のために保持し、もう1機をウクライナに引き渡すという「1+1」モデルの下で、ウクライナと海上ドローンの共同生産に向けて動いている。
今日、ウクライナの海上ドローンは黒海のかなりの範囲を支配している。北極圏やアジア太平洋をめぐる将来の紛争では、さらに大きな増加が予想され、まさにドローンの海になるだろう。
ウクライナ海軍参謀総長は、「戦争が終わったら、我々は必ず教科書を書き、それを全てのNATO士官学校に送る」と述べている。
参考資料:“Small Craft, Big Impact: Ukraine’s War and the Rise of New-Tech Warships,” (By David Kirichenko, Published Jun 8, 2025 1:57 PM by CIMSEC, Maritime Executive)