➢作戦の概要
・2024年6月1日(ロシアの「軍事輸送航空の日」)、ウクライナ保安庁(SSU)によるロシア領土の奥深くで、前例のない大規模同時無人機攻撃を実施
-遠隔地の4カ所の戦略航空基地を標的とし(「蜘蛛の巣」)長距離爆撃機隊に大きな打撃を与えた
・18ヵ月以上前から計画し、約150機の小型ストライクドローン、モジュール式発射システム、300発の爆発物を秘密のルートでロシアに密輸
-ロシア人のトラック運転手を募集し、通常の貨物積載物としてカモフラージュされた移動式無人機発射装置をロシアの空軍基地の近くの事前に指定された場所に駐車するよう指示
-攻撃時刻に合わせてトラックの屋根が遠隔操作で開き、ドローンはトラック内から直接発射。これにより、発射から着弾までの距離が最小限に抑えられ、ロシアの防空システムが反応する前に攻撃できた。
-関係者全員はドローン発射前にウクライナへの待避に成功
-ドローンが発射された後、証拠隠滅のためトラックは自爆

➢作戦の成果
・117機のドローンが発射され、戦略爆撃機Tu-95MS、Tu-22M3、早期警戒機A-50を含む40機以上の高価値航空機に命中(ロシアの戦略巡航ミサイル運搬プラットフォームの34%に相当)。
・ウクライナは、欺瞞、攻撃精度、戦略的奇襲を融合させた、独自のシステムと非対称戦術を使用して、国境をはるかに超え複数の戦域で組織化された深層攻撃作戦を実行する能力を示した。
  -ウクライナの進化する非対称戦争能力における重要なマイルストーン
-ロシアの後方防衛における脆弱性を暴露

➢アルジュパイロット・AIの活用
 ・ウクライナはドローン攻撃にハイブリッドな用法を採用
-人間の遠隔操作、ドローンの自律性、AI支援機能
-AIは飛行安定性、照準、特に高価値の航空機の脆弱な部分に対する正確な攻撃を支援
-使用された一人称視点(FPV)ドローンは、ロシアの移動通信ネットワーク(4G/LTE)を通じ
て、長距離にわたるリアルタイムのビデオ伝送と遠隔操作を可能にした
・オープンソースの 「アルジュパイロット(ArduPilot)」 をもとに構築されたソフトウェア/ハードウェア システムを使用
-長距離のインターネットベースのFPV制御、特にロシアの領土の奥深くで即席のモバイル発射プラットフォームを使用する場合に理想的な選択肢となった。
 ・AI支援によるターゲッティング
-手動制御とAI支援をドローンの攻撃ロジックに統合
-ウクライナのPoltava航空博物館に保存されている対象航空機(除A-50)の構造と視覚的プロファイルを調査し正確な弱点を特定し、マシンビジョンモデルのトレーニングデータとして機能し、その後、ドローンの搭載コンピューターに組み込まれた可能性
-特定された航空機の弱点を標的とした、最終段階(急降下攻撃時)の迅速かつ正確なオペレーター操縦を支援
-実施的にドローンは精密兵器として機能し、最終的な照準動 
作を実行できる可能性

➢標的となった航空基地

・オレニャ空軍基地(ムルマンスク州)
-ウクライナの北約1,900km、コラ半島に所在
  遠隔の北極圏にあることでウクライナの攻撃から十 
分に防護可能と認識
-Tu-22M3爆撃機などを含む第40複合航空連隊 
多数のTu-95MS戦略爆撃機が所在、長距離ミサイ
ル攻撃の重要な出撃基地

・ディアギレボ空軍基地(リャザン州)
-ウクライナとの国境から約470km
-戦略爆撃機乗組員の戦闘訓練のためのハブ、あらゆる戦略爆撃機の修理施設

・ベラヤ空軍基地(イルクーツク州)
-ウクライナから4,000km以上離隔し攻撃の恐れなしと認識
-Tu-22M3を運用する第220重爆撃機連隊が所在
-ウクライナによる無人機攻撃を初めて受ける

・イヴァノヴォ空軍基地(イヴァノヴォ州)
-ウクライナ国境から約700km
-A-50 AWACSの主要基地、保有機数は10機未満であるため、1機の損失で大幅に能力低下

➢破壊された航空機

・Tu-95
-ソビエト時代の戦略爆撃機
-Kh-55、Kh-555、新型のKh-101/102などの長距離
巡航ミサイルを最大16発搭載可能
-老朽化しているが長距離攻撃の主力

・Tu-22M3
-超音速長距離爆撃機でウクライナの大きな脅威
-Kh-22巡航ミサイルを搭載、通常攻撃力と核攻撃
力の一部を形成

・A-50
-防空システムの探知、ミサイル攻撃の調整、戦闘機の誘導に使用する早期警戒機(AWACS)
-運用可能機数は10機未満、高額(約3億5000万ドル)

・Tu-160
-超音速可変翼戦略爆撃機、長距離攻撃と核抑止力の主力
-Kh-101やKh-102などの核巡航ミサイルと通常巡航ミサイルの両方を搭載可能

➢教 訓
① 安価なドローンシステムで高価値の軍事プラットフォームを効果的に破壊できる。
-600ドルから1,000ドルのFPVドローンで数十億ドル相当の航空機を破壊
-射程やペイロードが限られている大量生産の消耗型システムでも、工夫次第で甚大な戦略的損害を与えられる可能性があり、このような例は増加傾向にある。

② 従来の防空システムがあっても専用の対UAV防御手段がなければ非常に脆弱である。
-パーンツィリ(機関砲とミサイルの近距離防空システム)やS-300(防空ミサイルシステム)の 
ような従来のシステムでは、近傍から発射された低空飛行のドローンに対処できずロシアの基地防護の重大な欠陥を露呈した
-対ドローン防御手段や格納庫の強化や電子戦などを含む重層的な防護が必要

③ ロシアの長距離爆撃機部隊のエコシステム全体を無力化する戦略的計画を反映している。
-SSUは、航空機以外にも訓練や修理の拠点であるディアギレボ空軍基地のような施設を意図的に標的にし、ロシアの戦略爆撃能力全体の低下を狙った。

④ ロシアの損失には、補充困難な戦略爆撃機が含まれている。
-破壊された爆撃機は生産終了になっており、現在のロシアには損失を迅速に修復するための産業 
基盤が不足している。
-ロシアの核トライアド(三本柱)を構成する長距離爆撃機が長期的に不足すれば大きな戦略的脆弱性をもたらす。

⑤ 信頼性の高い通信範囲を超えて無人で作戦を遂行するには自律性が不可欠である。
-Starlinkのようなハイエンドの通信インフラが利用できない場合の長距離のミッションでは、オ 
ペレーターが遅延や切断に直面する可能性があるため、自律航行機能は安価で消耗型のプラットフォームにとって特に重要である。

⑥ AI対応のターゲティングにより、低コストのドローンにより高精度で攻撃できる。
-航空機の弱点を認識するAIシステムを訓練すれば、安価なFPVドローンでも最も脆弱で可燃性の部分に高精度で命中させることができ、攻撃の費用対効果がさらに増幅された。

⑦ ウクライナは、自国の技術がリバースエンジニアリングされないよう秘密保持を優先している。
-ロシアが使用された戦術や技術を分析したりコピーしたりするのを防止するため、使用された機材等は自爆装置で秘密を保全した。

➢「蜘蛛の巣」作戦がもたらした重要なトレンド
・これらのトレンドは、産業規模だけでなく、技術的な俊敏性が戦略的優位性を決定する未来を示している。レジリエンス(強靭性)や対策、適応ドクトリンに投資することで早期に適応した軍隊は、急速に進化する戦場の課題に対応するのに最も適した立場に立つことができる。

① ハードウェアとソフトウェアの両方で、安価な消耗型テクノロジーが急増している。
-安価な既製のFPVドローンでも兵器化され、壊滅的な結果をもたらしうる。
-国家と非国家アクターの両方にとって魅力的なツールとなり、紛争地域と国内環境の両方での軍事的使用を予測、規制、および対抗するための緊急の取り組みが求められている。

② 自律性の着実な進歩は、これらのシステムの運用方法を進歩させている。
-将来のドローンは、ナビゲーション、ターゲティング、攻撃の各機能を統合して、長距離にわたって、最小限の人間の監視でミッションを実行できる統一された完全自律型プラットフォームに進化する可能性がある。
-この進化は、既存のドクトリン、監視メカニズム、および倫理的境界に挑戦することになる。

③ ドローンの脅威に対する堅牢な物理的保護と専用の対策の必要性が高まっていることを示した。
-重要な軍事インフラから民間施設まで、小型で高精度、かつ探知が困難なシステムに対する脆弱性が増大している。従来の防空システムは、この新しい脅威には適していないことが多く、早期発見、電子戦、階層化された物理的防御の革新が急務となっている。

参考資料:”How Ukraine’s Operation “Spider’s Web” Redefines Asymmetric Warfare,” (by Kateryna Bondar, Published June 2, 2025, CSIS)