ウクライナ戦争でロシアの戦略環境はかなり悪化した。NATOは「新戦略概念」(22年6月)を採択して即応部隊を大幅に増強することになり、各国の国防費も増額された。なんといってもスウェーデンとフィンランドのNATO加盟は歴史的な出来事だった。これによりバルト海でのロシア海軍の行動は制約され、フィンランドにF-35が配備されるとモスクワが射程内に入ることになる。プーチン大統領の目論見は完全に裏目に出たといえる。

 ロシアの中東、アフリカ戦略もシリアのアサド政権崩壊により大きな打撃を受けたが(12/11投稿)、海軍基地に加えてフメイミーム空軍基地からもロシアが軍事物資を撤収しつつあることが報じられた(ロイター、12/13)。

 さらにカスピ海はこれまで「ロシアの湖」と見なされてきたが、最近のウクライナのドローン攻撃でロシアのカスピ海に対する「制海権」が弱まっていることが明らかになった。

 11/6には、ウクライナのドローン攻撃により、カスピスクに停泊していたゲパルト級フリゲート「タタルスタン(F691)」や「ダゲスタン(F693)」を含むロシア艦艇が損傷した。11/21にはカスピ海北部のアストラハンから改造されたRS-26ルベシュ弾道ミサイルが発射されたが、その発射場はウクライナのドローンによって即座に反撃された。

 イランの無人機、ミサイル、弾薬はカスピ海経由(イランのアミラバドポートからロシアのオラヤ)でロシアに輸送されており、ウクライナにとって重要な攻撃目標となっている。特に、本年9月には220発のファタハ360弾道ミサイルと数千機のシャヘド136自爆ドローンがイランからロシアへ納入されたといわれている。

 こうした攻撃に加えて、最近のカザフスタンとロシアの関係悪化も反映してカスピ海地域の緊張は高まっており、沿岸国は海軍力の増強に動いている。現在のところロシアのカスピ小艦隊(フリゲート×2(損傷)、コルベット×16、掃海艇など)が最大であるが、イラン北部艦隊(フリゲート×1、高速艇×4など)の活動は活発である。その他のアゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタンの艦艇勢力は小さいものの、アゼルバイジャンはカスピ海唯一の小型潜水艦を保有している。

 11月のようなウクライナのドローン攻撃は今後も続くことが考えられ、その戦果によってはカスピ海における各国海軍の勢力図が大きく変化する可能性があり、「ロシアの湖」の今後が注目される。

参考資料:”Russia’s Waning Control of the Caspian Sea,” (Nov 28, 2024 3:14 PM by Maritime Executive)