アメリカ海軍のファイティング・スピリットといえば、「Don’t give up the ship!」「Damn the torpedoes, full speed ahead!」という言葉が有名だが、その由来。
1812年の対英戦争の時、フリゲート「チェサピーク」艦長に着任したローレンスは、英フリゲート「シャノン」からの挑戦状を突きつけられた。「チェサピーク」では、多くが新任で訓練もできていない士官と兵員ではあったが、ローレンスはあえて挑戦を受けて立ち、ボストン沖で一騎打ちの戦闘となった。結果は古強者のイギリス艦の猛撃に屈しローレンスは戦死、「チェサピーク」は捕獲されたのだが、そのとき重傷のローレンスの残した最後の一言、「Don’t give up the ship!(艦を見捨てるな!)」の絶叫は、アメリカ海軍の合言葉として今日も生き続けている。
また、南北戦争では、1864年のモービル湾の戦いにおいて、北軍のファラガット艦隊は、湾への突入にあたり「ブルックリン」を先導艦とし、旗艦「ハートフォード」は二番艦となった。これら主隊とは別の四隻のモニター砲艦は、モルガン砦に砲撃を加えるべく行動した。行動開始後まもなくモニター砲艦「テカムセ」は南軍の敷設した水雷にかかり大爆発し転覆沈没。その時、艦首方向に数個の浮標を発見した先導艦「ブルックリン」は、敵機雷原の境界標識と判断し後進をかけて行き足を止めたため、単縦列の陣形はたちまち混乱し、砦の射程内でもたつき始めた。ファラガットは「ブルックリン」に近付いて急停止の理由を聞くと大声で叫んだ。「Damn the torpedoes, full speed ahead!(水雷がなんだ!前進全速!)」この言葉もアメリカ海軍のファイティング・スピリットを示す伝統の合言葉とされている。
※本稿は、堀元美著『帆船時代のアメリカ 上』(1982年、原書房)の一部を許可を得て転載したものです。