米戦略予算評価センター(CSBA)報告書 トシ・ヨシハラ著「CHINESE LESSONS FROM THE PACIFIC WAR -IMPLICATIONS FOR PLA WARAFIGHTING」「中国が学んだ太平洋戦争の教訓 -人民解放軍の戦闘行動への含意」(2023年1月)(抄)

▼背 景

・90年代からの「世界一流の軍隊」建設(~今世紀半ば)で米中軍事バランスは激変、多くの分野で米軍と同等あるいは優位、グアムは弾道ミサイル射程内、南太平洋諸国との外交強化

・10年前とは異なる軍事オプション可能、アジアでの大国間戦争の様相は大きな変化の可能性

・中国は1979年以降、実戦経験がないことから他国の戦争を貪欲に研究、フォークランド紛争、(第一次)湾岸戦争(と引き続くRMA)、コソボ紛争、9.11以降のアフガン戦争とテロとの戦いなど、主に劣勢軍としての戦い方を研究

・米軍とパリティになり大国同士の太平洋戦争がより適切な教訓を提供、ドクトリン、作戦、戦術、編成などの変革が必要、太平洋戦争に関する研究発表が激増

▼米国が分析する価値

①中国海軍は今後数年で外洋海軍として発展し帝国海軍のように米海軍に匹敵する存在となる

②中国は過去30年間の米海軍が戦った劣勢の敵との戦争を研究してきたが、今後の研究は大海軍同士の太平洋戦争が事例として重要性を増す

③中国では太平洋戦争に関する多数の研究があるが、西側ではほとんど分析されていない

▼A2/AD戦略を超えて

・大規模な戦力投射能力を構築、10年後A2/ADに特化した戦力からバランスのとれた大戦力へ

 攻勢的統合作戦で近海の制海権、西太平洋の局地的前線となる国家を圧倒、遠隔戦域に前線

・中国海軍は340隻で世界最大、2020~30年で35%増その後も漸増、近代的600隻海軍に近づく

 日本海軍が絶頂期の1941年に東アジアで何が可能だったかが中国海軍の行動のヒント

▼太平洋戦争との類比

・中国は将来、1942年の日本の国防圏に匹敵する広大な戦域での戦闘を想定

 日本海軍の「漸減邀撃構想」は、冷戦中のソ連戦略、中国のA2/AD戦略に類似

・中国は弾道ミサイルや航空機の射程圏で敵を捕捉、米海軍空母打撃部隊は80年代後半以降初めてアウトレンジからのミサイルの重大な脅威に直面

・米側の太平洋戦争研究の多くは、優勢の米軍に劣勢の中国がA2/ADで邀撃することを前提

 中国が海上・航空優勢を確保し、領域保全のため戦力投射することを前提とすべき

 太平洋戦争における日本ではなく米国が演じた役割を将来の中国が果たすことを考慮すべき

▼資料と分析手法

・1980~2010年、中国では第二次大戦に関する1,100冊以上の書籍、約8,700本の論文、700以上の外国の研究の翻訳、軍や民間の大学等で同戦史に関する修士、博士号

・人民解放軍内で戦史研究は重要視、ミッドウェー(空母戦)、ガダルカナル(両用戦)、沖縄戦(遠征兵站)の研究多数、人民解放軍、国防大学、軍事科学院などから2010~22年に発表された101件の戦史研究を分析

▼中国のミッドウェー、ガダルカナル、沖縄戦に関する分析

(略)

▼太平洋戦争に関する中国の分析

①分析者が最も注目したもの

・大規模、陸海空水中、三次元的な統合作戦と水陸両用戦

・陸上航空兵力の果たした役割

・後方支援、前進基地、洋上補給、船団輸送、上陸部隊への支援SLOC妨害・防護

・兵力の集中と分散

・情報活動、偵察

・日本軍の自信過剰(「勝利病」)

・海上戦闘の苛烈さ(多数艦艇の喪失、特攻は米艦防空に対する「計算された対応」)

・喪失人員や艦艇の補充能力(国力)

②日本海軍の誤判断に対する分析

・兵力の分散、情報・偵察活動の失敗(ミッドウェー)

・拡大しすぎた戦場と後方補給線、兵力不足と逐次投入、米補給部隊への攻撃なし(ガダルカナル)

・上陸前の米上陸部隊への攻撃(沖縄)

③現代の人民解放軍への教訓

・ミッドウェーでの情報活動は特に重要、情報戦で優勢の米軍に勝利する可能性を高める

・探知センサー、被探知防止能力と戦術、敵の認知プロセス操作などが必要

・上陸部隊が重要な敵地を確保したら直ちに防御態勢に移行する必要(ガダルカナルの飛行場)、このため兵力の集中、縦深防御、陸海空統合作戦、優越した後方支援が極めて重要

・グローバル化する人民解放軍の遠征部隊のための平戦両時のインフラと支援能力、このため前進基地、輸送手段、支援施設が必要

・中国はSLOC防護・破壊を確実に行なえる部隊を展開するとともに演習を通じてその能力を示すべきだが、国力を超える遠征作戦は行うべきでない

・沖縄上陸前の米空母による航空制圧作戦のように中国は上陸地の飛行場や航空機を極力多く破壊するために様々な精密誘導兵器が必要となろう、

・早期警戒網、電磁波領域を支配する能力が必要

・陸上航空兵力の支援の有無は作戦に大きな影響

▼中国の分析に対する評価

・作戦、戦術レベルがほとんどで戦略的な分析は少ない、「戦場の霧」も考慮外のケースあり

・特定の施策目的や興味、偏見、見落としによりバイアスの可能性、90年代からの「情報化された局地戦」コンセプトに沿った戦史分析、日本軍に対するネガティブな見方、中国側の先入観や偏見に沿った分析

・実際の戦略やドクトリンにどの教訓をどの程度とり入れるかは不明確