ここ数年、南シナ海でのフィリピンと中国の沿岸警備隊の遭遇の写真や動画が国際報道機関やSNS上で急増している。これは、フィリピンが2023年から実施している「透明性イニシアチブ」という取り組みであり、偽情報やプロパガンダに対処、対抗するとともに、南シナ海における中国の違法活動を公表する上で極めて重要である。

一方、インドネシアも北ナトゥナ海で中国からの同様の脅威にしばしば直面するが、そのような「透明性イニシアチブ」を実施する可能性は低い。中国からの投資流入を維持することを優先しているからだ。

フィリピンは中国の違法活動を暴露することで、中国の威圧に立ち向かう際の国内外の支援を増やし、中国に国際法を遵守し、そのような無謀で挑発的な行動を控えるよう圧力をかけることを目指している。確かに中国の行動について国際的な意識を高めることについては一定の成果が見られるものの、行動の抑止については中国の実績から見てあまり成功しているとはいえないだろう。

中国の挑発的な行動はフィリピンに特有のことではなく、ベトナムやマレーシアなど、南シナ海の他の領有権主張国も中国の標的となっている。インドネシアは領有権主張国ではないが、中国の九段線とインドネシアの排他的経済水域が重なる北ナトゥナ海で中国の侵略に直面している。

しかし、インドネシアを含む他の東南アジア諸国は、このような透明性イニシアチブの実施に消極的である。その主な理由は、経済関係である。ジャカルタは、中国政府が中国の攻撃的な行動に対して外交的抗議を続けているが、中国を名指しするという公の「メガホン」外交をしばしば避けてきた。

実際、2023年の中国のフィリピンへの投資額は1億5,500万米ドルあまりだったが、インドネシアへの投資額は30億米ドルを超えるものだった。このレベルの経済関係を維持することが、ジャカルタが北ナトゥナ海での直接対立を避けたい理由である可能性が高い。さらに、プラボウォ・スビアント大統領は昨年就任して以来、中国とのより緊密な経済関係に関心を示しており、北ナトゥナ海で中国と対峙する代わりに、そこで共同開発をしたいとさえ考えている。

プラボウォ氏の南シナ海政策の背景には、経済的な実利的計算があるようだ。プラボウォ氏は、直接的で対立的な政策を採用する代わりに、世論の批判や協定の合法性に関する疑問にもかかわらず、共同開発協定を通じて中国と協力する現実的なアプローチを選択している。インドネシアがプラボウォ政権下で「透明性イニシアティブ」のような政策を実行する可能性は低いだろう。

参考資料:”Why Indonesia is Unlikely to Publicize China’s Aggression at Sea,”(Published Nov 12, 2025 10:41 PM by The Strategist)