北朝鮮の朝鮮中央通信は9日、国連のフェルトマン事務次長が5~9日に北朝鮮を訪問し、北朝鮮と国連の間で今後、様々なレベルによる意思疎通を定例化することで合意したと伝えています。

 また同通信は、金正恩委員長が白頭山に登り「国家核戦力の完成という歴史的大業を輝かしく実現した日々を感慨深く振り返った」と報じています。やはり今回の「火星15」の発射成功で「ICBM完成」と考えているのでしょうか。

 1996年5月、北朝鮮空軍の李大尉がミグ19戦闘機で韓国に亡命したことがありますが、彼は操縦士歴10年にして総飛行時間がわずか350時間だったそうです。

 年間平均35時間ということになりますが、航空自衛隊の戦闘機パイロットが技量維持に必要な年間飛行時間が150時間というのを聞いたことがありますので、北朝鮮の戦闘機パイロットの技量が実戦に耐えられるものとは思えません。あれから20年、経済制裁の下、訓練用の燃料もままならないとなれば、とうに旧式化した戦闘機さえ張り子の虎ということになります。

 明らかに陳腐化し訓練不足の軍隊や日本海沿岸に漂着するみすぼらしい漁船、それに対して「国家核戦力」への傾斜と白頭山での金正恩の誇らしげな表情。フェルトマン次長には子供用食品製造工場等を見せ、同次長が「制裁が悪影響を及ぼしていることを認識し、人道的な協力が進められるよう努力する意向を示した」とされています。

 北朝鮮が、米国を脅かす「核戦力」が完成しており米朝の駆け引きの土台が出来上がったと考えていたり、国際社会に対して「人道」をアピールできると考えているとしたら大きな勘違いをしていると言わざるを得ないと思います。せめて金正恩は「内心焦っているのだ」と思いたいものです。(2017年12月18日)

 さて、第8回は「初期的な作戦アプローチ」まで説明しましたので、今回は、作戦アプローチを完成させるための手順を説明します。

▼作戦のアレンジメント

 導き出された初期的な作戦アプローチに対して、敵のエンドステート達成を排除し、作戦全体の空間的、時間的活用を図るために、引き続き次のような要素を加味して作戦をアレンジします。それぞれの意味は以前の回で説明しました。

① 作戦リーチ、作戦限界点                                               

② 縦深性、同時性、タイミングとテンポ

③ フェーズ、分岐策、事後策、(決心点)、作戦休止

 まず、初期的な作戦アプローチで明らかになった作戦の流れを事態予測(Anticipation)として更に具体的に表現します。

 事態予測は、初期のアプローチに沿って、生起し得る事態を詳細に検討し、決勝点等を予測することに焦点を当てます。決勝点の様相を詳しく予測するのですから、これは効果的な計画作業の鍵となります。この予測に基づいて、事態ごとの対応作戦のオプション(分岐策)や、その作戦の結果を受けた事後策を明らかにすることができることになります。

 次に、予定される部隊編成等を念頭に置きつつ、「作戦リーチ」と「作戦限界点」を見積り、作戦の限界を明らかにします。これを考慮に入れつつ、想定される作戦地域や時期を友軍にとって最も有利となるように設定し、「縦深性」の活用、「同時性」、「タイミング、テンポ」に関する検討を進めます。これらの検討を進める中で、作戦全体の「フェーズ」をどう区分すればよいかとか、「分岐策、事後策」が必要になるポイント、「作戦休止」を挟み込む必要性などを検討しつつ、全体の構成を試行錯誤、循環的に調整しながら徐々に完成を目指すことになります。

▼ビークルの特徴を生かす

 このような作戦のアレンジメントと並行して、作戦に用いる艦艇や航空機等(ビークルと総称します)や部隊の特徴を最大限に生かすことも考慮します。

 フォークランド紛争での例を見てみます。イギリスは同紛争の開戦以前から原子力潜水艦を先行的に現場海域に展開させていました。隠密性と攻撃力を持つ潜水艦については、その行動は確認も否定もしないというのが基本原則であり、原潜の事前展開は、発表しない限りアルゼンチンを挑発することもなく外交交渉にも影響を与えることもなかったでしょう。

 その一方で、水域内に存在するかもしれないというだけで相手に多大な捜索努力と警戒を強い、行動を牽制できます。事実、開戦後に英原潜がアルゼンチン巡洋艦「ヘネラル・ベルグラーノ」を撃沈した後は、対処法のなかったアルゼンチンの水上艦艇は外洋への行動を取止めざるを得なかったのです。

 一方のアルゼンチンも、アメリカの偵察衛星による画像情報をイギリスが得ていることを予測して、老朽化し実際には潜航できない潜水艦「サンチャゴ・エル・デストロ」が、あたかも作戦についていると見せかけるために通常の係留場所から移動させ隠す等の工作を行いました。

 特殊部隊の行動も通常は公表されないものですが、フォークランド紛争においては、イギリスの決意を内外に誇示するため、華々しい空母部隊の出港に合わせてあえて大々的に宣伝されました。

 その他、フォークランド紛争では、旧式の英ヴァルカン爆撃機によるスタンレー空港の爆撃により滑走路を破壊しましたが、作戦全体としての成果は小さいものでした。しかし、これによってイギリスは限定的ながらもアルゼンチン本土を空爆する能力を有することを示すことに成功しました。この結果、アルゼンチンは空軍機を本土防空にも備えさせる必要が生じ、フォークランド諸島の防衛のためだけに集中させることができなくなった例がありました。

 このように、ビークルや部隊は本来の能力に加えて、「見せ方、使いよう」の面も大きいので、プレゼンスを顕示することで国家意思をアピールしたり、欺瞞作戦への応用も含めてその特徴、能力を生かす方策を作戦に加味することは極めて重要といえます。

▼リスクの評価

 計画作業のプロセスにおいて、使命の達成を阻害しそうな障害や行動が明らかになったら、それぞれの蓋然性と影響度を評価し、必要な場合には回避策や軽減策をとります。

 例えば、「イラクの自由作戦」の準備段階における国家安全保障会議において、ラムズフェルド国防長官が配布した戦略レベルのリスク要因を記した機密文書には29項目が含まれており、そのリストの一部は以下のとおりであったとされています。

① 米国のイラクへの関与と没入に乗じる第三国の出現

② 原油生産が混乱し、世界に衝撃波が拡散

③ イラク情報機関の諜報員が、米国、米軍部隊、同盟国等を攻撃

④ 付随被害が想定より大きくなる可能性

⑤ バクダッド攻防戦が泥沼化する可能性

⑥ イラク国内で以前に起きたような宗派、民族間の紛争が生起

⑦ イラク軍がシーア派を化学兵器で攻撃し米国の仕業と非難

⑧ イラクが宣伝戦でイスラムに対するアメリカの戦争だと主張 等

  このリストはいわば戦略レベルのリスクといえます。実際の計画作業においては、これら戦略レベルのリスクが作戦、戦術レベルに及ぼすリスクに加えて、作戦、戦術レベル独自にそれぞれのリスクを列挙して評価することになります。

 個々のリスク要因のうち、特に戦術レベル(それ以下のウェポン、センサーレベルを含む)や作戦レベルにおいては精緻な数値シミュレーションで評価が得られるものもありますが、シミュレーションの模擬限界、得られた数値が含む誤差、更には他の要因やシミュレーション技法との横並びを考慮して計画作業に応用する際には、以下のような概括的な評価を付与することになります。

蓋然性:  Frequent >Likely >Occasional >Seldom >Unlikely

影響度:  Catastrophic >Critical >Marginal >Negligible

 この蓋然性と影響度の評価を総合して以下の4段階でリスクを表現することになっており、ここにも作戦術が「科学」というよりも「術」であるといわれる所以がみてとれます。なお、これらの形容詞の使い分けは軍事関係ではよく使われるので、参考にするとよいと思います。

Extremely high:         使命達成の能力を喪失

High:                        使命達成の能力を大きく低下 

Moderate:                 使命達成の能力を低下

Low:                          使命達成への影響はない/ほとんどない

▼リスク許容度

 最後に、これら評価されたリスクをどのように取り扱うか、つまり「許容されるリスク」をどのように考えるかという問題があります。この「リスク許容度」は、作戦の性格、段階、戦況、象徴的な事象等によって大きくかつ急激に変わり得るものです。このため、特に国内外の政治状況や世論などにも大きく影響され得るものであることを念頭に、注意深く継続的に評価する態勢をとる必要があります。

 さらに、リスク許容度を作戦の制約条件としてみた場合、ある一定の変化が生じると「作戦アプローチ」を変更する必要が出てきます。このようなリスクについては、継続してモニターして変更のタイミングを間違わないよう「RI(後述)」の項目に含めておくことも必要です。

▼作戦アプローチの完成

 小規模、短期間の作戦であれば、ここまでの検討プロセスで作戦アプローチはほぼ完成となります。しかし、大規模で複合的、かつ長期間を要する作戦になると、作戦の実施そのものにより計画作成の前提となった作戦環境が変化する可能性を考慮に入れる必要性が出てきます。また、複合的な作戦になると、作戦全体を構成する部分的な任務行動同士の相互作用も考慮しなければならない場合が多いといえます。

 このような理由から、大規模な作戦では、まずは初期的なアプローチを策定した後、作戦環境の変化や任務行動の組合せ等について検討して最終的な作戦アプローチを完成させる二段階方式で検討することが通例です。

 この方式では、初期の作戦アプローチに作戦上のアレンジメントを加えることにより作戦アプローチを完成させます。その際、作戦アプローチを進めるに従い関係アクター間の相互作用によって作戦環境が変化し得ること、敵の戦い方に変化があり得ること等を考慮し、エンドステートを達成するためのあり得る行動の組み合わせを描き出します。

 最後に、導き出された作戦アプローチがもたらし得る望ましくない副作用があればそれを考慮し、作戦環境を再評価し、当該結果を緩和する方策を検討し、戦略的、作戦的リスクを明確にして作戦アプローチを改善して完成させることになります。

▼作戦評価の準備をする

 作戦アプローチが完成したら、次は作戦評価の準備を行います。作戦評価とは、継続的に作戦状況をモニターして使命達成に向けた統合作戦の進捗状況を評価することをいいます。基本的に、「しかるべき作戦をしかるべく実施しているか?」という観点から、期待される作戦結果と実際の状況を慎重に比較します。

 作戦評価により、統合部隊は、より客観的に作戦の進捗状況を把握し、現在の任務と目標の適合性を判断でき、エンドステート達成のためのより良い方策がないか継続的に評価し、必要に応じて作戦アプローチ、作戦計画、命令を修正することが可能となります。

 評価のためのクライテリアは、作戦全体、フェーズ別、あるいは構成部隊の実施する部分作戦別に設定される「使命達成クライテリア(Mission success criteria)」それぞれについて、MOE、MOPというツールを当てはめるのが通例です。

  •  MOE(Measure of Effectiveness):

「正しいことを行なっているか」を評価します。エンドステートや目標の達成状況、効果の発揮状況と密接に関連する軍事、政治、経済等全体の動き、能力、又は作戦環境の変化を評価し、実施された作戦行動の適合性、妥当性を評価します。

  •  MOP(Measure of Performance):

「正しく行っているか」を評価します。友軍の戦術行動の効果を物理的・数値的側面(展開速度、燃料消費、武器やセンサー効果等)に着目して、数値的、直接的に評価します。数値的な把握が困難な感化作戦(心理戦)等の評価は環境に応じた評価方法を工夫する必要があります。

 なお、これらの評価のためには様々なデータや情報を集める必要がありますが、その負担が作戦を圧迫することがないように十分に留意し、項目、精度、頻度等を選別し、指揮官の重要情報要求(CCIR:Commander’s Critical Information  Requirement)に兼ねるなどの考慮を払うことが重要です。

 同時に、現場の部隊が成果を良く見せたいがため、評価指標とされたものについて特に注力して改善する等、「手段の目的化」などの悪弊が生じて現場のオペレーションに悪影響を及ぼさないような配慮も必要とされます。

 一方、以上のようなMOEやMOPに加えて、作戦レベル以上においては、「そもそも現在の作戦アプローチは妥当なのか?」という観点を持ち続けることも極めて重要です。そこで、作戦設計のステップを一段遡って、現在の作戦アプローチを見直さなければならないような作戦環境の変化や認識していなかった環境要因の発生を把握するための指標として、RI(Reframing Indicators)を用います。

 RIの指標としては、PMESII分析で把握された主要アクターの相互関係や結節点に関するものを多く含むことが考えられます。例えば、問題の定義に際して考慮した主要な要因、敵の構成や作戦アプローチ、友軍の能力、エンドステートに影響するような上級司令部の方針、予期しなかった友軍の作戦の遅延、国際社会の支持や国内世論、主要な計画上の仮定等に大幅な変化が生じた場合等です。

 RIは、適切な作戦アプローチを維持・修正するために不可欠であることに加え、長期的な敵のサラミ・スライシング戦術(※)や、緩慢ではあるが本質的な作戦環境の変化等に対処するため、当面の作戦に没頭し視野狭窄に陥りがちな司令部、あるいは現行計画のもとになった作戦アプローチ等を作成した指揮官や主要な幕僚が交代し、当時の検討内容が十分に引き継がれていない司令部にとって極めて有益な指標といえます。

※サラミ・スライシング戦術

 軍事の文脈では、相手の本格的反応を招かない程度に時間をかけて少しずつ既成事実を積み重ね、当初の目標を達成しようとする戦略。近年では、中国が南シナ海の島嶼や環礁を関係国の干渉を巧妙に避けつつ、少しずつ埋め立てて実効支配を強めようとする試み等の例がある。関連した戦術に中国のいうキャベツ戦術(非軍事を含む国家的手段を多層的に組合せ、相手の本格的反応を抑えつつ目的を達成する戦術)もある。  

※本稿は拙著『作戦司令部の意思決定』の要約抜粋で、メルマガ「軍事情報」(2017年10月~2018年3月)に「戦う組織の意思決定入門」として連載したものを加筆修正したものです。