カナダ政府はNATO支出のベンチマークを公約しており、必要な監視能力を迅速に整備しなければならないが、中国とロシアの砕氷船団が及ぼす主権と環境保護上の重要な懸念を考えると北極圏ほどこの緊急性が求められている場所はない。
現在の北極海に対するレーダーのカバレッジは断片的で、Xバンド沿岸レーダーは沖合10〜30マイルのみ、衛星は静止画像のみで継続的な追跡はできず天候にも影響を受ける。カナダ・オーストラリアのOTH(Over-The-Horison)レーダー・イニシアチブはオンタリオ州から北方をカバーするものの、北極海の船舶ではなく、大陸の対空とミサイルの探知用に構築されている。
しかし、幸運にもカナダはすでに実績のある国産の高周波表面波レーダー(HFSWR)を開発しており、船舶がスプーフィング(誤った位置の送信)したり自動識別システム(AIS)ビーコンをオフにした場合でも、あらゆる天候で沖合200マイルまでの船舶を継続的に監視できる。見通し線に限定された従来のレーダーとは異なり、HFSWRは海水の導電率で海面に沿って電波を曲がる性質を利用して探知距離を伸ばすレーダーである。
カナダの高周波表面波レーダー (HFSWR)は、レイセオン・カナダとカナダ政府の3年以上にわたる投資と開発の成果であり、最初にノバスコシア州ハートレンポイント(Hartlen Point)で、そして最近ではニューファンドランド州ケープレース(Cape Race)でその世界クラスのレーダー技術の成熟度を証明した。
2019年以来の開発プロセスで「Northern Radar Incorporated」(以前のHFSWRアンテナの全てのサブシステムを担当したチーム)の買収により、エレクトロニクス、ソフトウェア、アンテナの専門チームが集められ、カナダは北極海の海上監視ソリューションをひとつの完全なシステムとして提供できるようになった。同時に、レイセオン・カナダのプログラム管理と運用サポート等における強みは、カナダでの展開の貴重な要素であり続けている。
HFSWRは、迅速な配備にも適している。ケープレースやハートレンポイントなどの既存の施設の再稼働
は、数週間から数か月で可能だし、新しく北極圏にサイトを設置するのも12〜18か月で可能である。少数のサイトで広大な海域をカバーし、航空機や巡視船を誘導でき、カナダにとっての戦略的意義は大きい。
持続的な監視は主権の基盤であり、カナダは北極海域の支配をリアルタイムで実効化できる。また、北方の監視空白域を埋めることで、NATOとNORADへの貢献が強化されることになる。さらには、捜索救助、漁業、阻止、環境管理などの沿岸警備隊の任務を支援できるので、軍民の相乗効果も見込める。
カナダにとって重要な課題は、北極圏での主権を守り、その海域を通過する船舶がカナダの安全や環境を脅かさないようにすることである。東海岸と西海岸の北西航路の入り口は、この航路のチョークポイントだが、10〜30マイルの探知能力のXバンドレーダーでは、これらの入り口を完全に監視することはできないため、少数のHFSWRシステムがそれを可能にするだろう。HFSWRは、航空機のパトロールの数分の一の費用で広域をカバーし、最小限の人員、遠隔操作、および長い耐用年数を実現できる。
高周波表面波レーダーは、すでに運用可能なシステムであり、OTHレーダーと組みあわせることにより、カナダに階層化された戦略的レーダー網を構築することになるだろう。
参考資料:”Canada’s Underutilized Advantage in the Arctic: Surface Wave Radar,”(Published Oct 12, 2025 4:41 PM by Pierre LeBlanc, The Maritime Executive)