トランプ大統領は9月23日、国連総会で「ウクライナはこの戦争が始まった元の国境を取り戻すことができる」と語った。これは、最近まで米国政権幹部が想定していた見方と大きく違うものだが、戦場の現実は、2025年にウクライナの重要な町は陥落しておらず、わずかな地勢を失っただけであるということだ。ポクロフスク(Pokrovsk)の重要な前線要塞は、年間を通じてロシアの主な攻撃目標だったが、依然としてウクライナが保持している。
ロシアは戦果に比べて莫大な人的損失を被っており、遅かれ早かれ国内問題となるだろう。ロシアの航空、ミサイル、無人機作戦は激化しているが、ウクライナの戦意を損なうことも、修復不可能な損害を与えたわけではないようだ。海上では、ウクライナはロシアの黒海艦隊のほとんどを港に閉じ込めており、現在ではピブデニ(Pivdennyi)、オデッサ(Odesa)、ミコライウ(Mykolaiv)、チョルノモルスク(Chornomorsk)の港を通じてなんとか自由に貿易できるようになっている。戦況は膠着状態といえる。
しかし、2つの要因が紛争の性格を変えている。ここ数カ月間、双方による小型攻撃ドローンの使用により、前線に「デッドゾーン」が形成され、双方とも突破できず疲弊し、人員の不足から新たな攻撃部隊を作ることができず、近い将来、地上戦で決定的な突破口を開く可能性は急激に低下している。
一方で、新しい要因として、ドローンや巡航ミサイルによるウクライナの長距離攻撃が巧みなターゲッティングと連携により大幅に改善されたことがあげられる。9月23日のノヴォロシースク(Novorossiysk)への複合的な大規模攻撃はこの例だ。1トンもの弾頭を搭載したトロカ(Toloka)水中ドローンを含む海上ドローンが、黒海艦隊の主要基地である港の防御を突破するとともに、カザフスタンからのパイプラインの終点となるカスピ海パイプラインコンソーシアムの本部は空中ドローンによる攻撃を受けた。ロシア当局は25機の無人機を撃墜したと発表したが、攻撃の規模がうかがえる。
18マイル離れたゲレンジーク(Gelendzhik)の港は閉鎖、75マイル離れたトゥアプセ(Tuapse)港が攻撃され、125マイル離れたソチ(Sochi)でも避難命令が発令された。住民らは、ウクライナに対する「特殊作戦」が見事に進んでいるというプーチン大統領を疑い、内乱とチェルケス(Circassian)分離主義が煽られていることは間違いない。
このような攻撃は激化しつつある。ウクライナは、1発100万ドルのフラミンゴ巡航ミサイルの生産を10月までに1日1発から7発に増やし、デンマークの工場は、12月までにミサイル用の固体燃料を生産するはずだ。このミサイルは1トンの弾頭と1,750マイルもの射程を持ち、様々な場所からモスクワとサンクトペテルブルクを標的にするのに十分だ。西側諸国とカスピ海地域におけるロシアの石油インフラは、深刻かつ持続的なリスクにさらされることになる。

ウクライナのドローンとミサイルによる石油インフラへの攻撃で、ロシアでは戦死者の増加に加えて、至る所でガソリン不足が起き、政情不安の可能性が増している。プーチン大統領は、ポーランド、エストニア、スウェーデン、デンマークで無人機や戦闘機による領空侵犯でNATO内に不協和音を引き起こし、究極的には米国をNATOから切り離すという目的を考えているかもしれないが、現在のところNATOの団結は強化されつつあり、ウクライナに広がるNATO飛行禁止区域の創設の可能性すらあり得る。
ロシアの経済インフラに対するウクライナの攻撃の激化により、ロシアの石油・ガス輸出システムに大きな混乱をもたらすのは確実だ。石油積出港やパイプラインへの攻撃は、ロシアの「影の船隊」タンカーへの制裁の強化と相まって、輸入国が従来の供給業者から他の場所からの供給を求めなければならないようになり、世界の石油市場の再調整と石油運搬能力の切り替えが必要となるだろう。
参考資料:”The Tide is Turning – Russia Rattled as Refineries Razed,”(Published Sep 28, 2025 3:02 PM by The Maritime Executive)