▼北朝鮮、核戦力完成?

 「火星15」発射後の分析が徐々に明らかにされています。北朝鮮は核戦力が「完成」したと宣言しましたが、技術的課題が残されているのは明らかですから、本当の戦力化のためには今後とも発射を繰り返さなければならないものと思われます。今回の「宣言」を対話のシグナルと見るべきなのか考えるべき曲がり角に差し掛かっています。

 一方で、トランプ大統領は「ICBMは絶対許さない」と言っていますので、北朝鮮をこのまま一気にコーナーに追い込むのか、対話のシグナルとみて受け止める姿勢を示すのか注目されるところです。

 折しも、米韓空軍の合同訓練が230機もの作戦機を動員して行われました。米軍が「先制攻撃」をする場合には圧倒的な攻撃力で北朝鮮の反撃を封じるのではとの見方があります。北朝鮮は様々な射程の弾道ミサイルを多数配備していますが、ごく簡単に言ってしまうと韓国向けの短射程、日本向けの中射程、米国向けの長射程それぞれのミサイルが多数配備されているわけです。

 仮に空爆でこれらのミサイルを破壊するとした場合、米軍は破壊するミサイルの優先順位をどのように決めるのでしょうか?米国向けの長射程ミサイルの確実な破壊を犠牲にしてまで日本や韓国を狙ったミサイルを破壊してくれるのでしょうか?そもそも目標となるミサイルがどの国を狙ったものか識別できる確度はどの程度あり、それらを破壊するための攻撃力(の余力)はどの程度十分なものなのでしょうか?

 このようなことを考えると、日本の憲法でも許容される一定の策源地攻撃能力を保有する必要性が改めて理解されると思います。簡単な話なのですが、いかに同盟国であるとして戦略、作戦レベルで一致していても、最終的には戦術レベルで「仕事」をしなければなりません。敵のミサイルの破壊を一基単位で分担することは極めて困難でしょう。日本も「応分の攻撃能力」を持ち、自分の国はまずは自分で守るという確固たる姿勢をとることが重要ではないでしょうか。

 このように弾道ミサイルが心配される中、北朝鮮の木造船の漂着も続いています。北海道の松前小島の荒らされた避難小屋を感染症を警戒して防護服を着て調査せざるを得ない海保や警察の様子を見ていると、大量の避難民が押し寄せた場合の対応を想像すると慄然とします。今こそ冷静に脅威を見据えてしかるべき対策を速やかにとらなければならないときです。(2017年12月11日記)

 さて、第7回は、作戦計画を作るための手順に沿って説明しましたので、今回は、計画作成の指示を受けて最初に行わなければならないところから説明してゆきたいと思います。

▼作戦アプローチを導き出す 

 計画作成の指示を受けたら、まず「作戦アプローチ」を作ることになります。

 「作戦アプローチ」とは、エンドステートを達成するために実施されるべき部隊の大まかな行動を示すものですが、これにより指揮官の着想をスケッチのように視覚化し、一貫性のある計画作成作業を円滑に進めるため、幕僚や部下指揮官に理解しやすく伝えるための手法でもあります。

 作戦アプローチの策定にあたっては、まず次の3点を踏まえる必要があります。以下、順次説明したいと思います。

① 戦略指針を理解する(達成すべき戦略目的、軍事目標は何か?)

② 作戦環境を理解する(問題を定義する際に考慮すべき環境条件は何か?)

③ 問題を定義する(軍事作戦で解決しようとする問題は何か?)

 

▼戦略指針を理解する

 作戦アプローチの作成に当たっては、まず大統領、国防長官、統合参謀本部議長(以下、統参議長)、地域統合軍司令官が示す戦略指針を分析することから始めます。

 ここでいう戦略指針とは、「何をもって勝利や成功とするのか(目的)」を定義し、戦略目標の達成、すなわち「戦略的エンドステートの達成のための兵力や資源(手段)」の割り当てを示すものです。

 特定の危機に際しては、統参議長の「計画開始命令(PLANORD)」、「警戒命令(ALERTORD)」、「注意命令(WARNORD)」が、情勢、軍事作戦の目的、目標、予想される使命や任務、関連する制約、割当て部隊等を含む指針を示すことになっています。

 いずれの場合にも、地域統合軍司令官は戦略指針に基づき軍の役割を規定する「軍事的エンドステート」及び「戦略的軍事目標」を決定します。これらが作戦設計の出発点となります。

 「イラクの自由作戦」の折、計画・戦略指針としてラムズフェルド国防長官が2001年12月12日に指示した事項は、「政権を転覆させ、サダム・フセインを打倒し、予想される大量破壊兵器の脅威を取り除き、疑惑がもたれているフセインのテロ支援活動を根絶し、近隣諸国、特にイスラエルへの脅威を消滅させるための軍事作戦を立案する。この際、派遣される部隊の規模を縮小し、準備期間を極力短縮する。」であったとされています。

 また、枠にとらわれずに考えること、徹底的に秘密裏に作業を進めることがあわせて指示されました。また、国防長官は、早ければ年が明けた4月か5月には実施できるように準備しようとも話して、フランクス司令官を驚かせましたが、さすがにそれほど早い開戦とはなりませんでした。翌年8月には、国家安全保障大統領命令(NSPD:秘密文書)が以下のとおり起案されたとされています。これにより軍事行動だけでなく、まずは外交手段を尽くすとの方針が確認されました。なお、この文書で用いられている目的、目標、戦略の用語は作戦計画で用いる意味ではなく、一般的な用語として使われています。

① 米国の目的:

大量破壊兵器及びその運搬手段と関連する開発計画を破棄させるためにイラクを解放する。イラクの近隣諸国への脅威を除去し、自国民に対する弾圧を阻止し、国際テロとの結びつきを断つ。等

② 目 標:

米本土、現地米軍、同盟国等に対する大量破壊兵器使用の危険性が最小限にとどまるような政策を実行する。等

③ 戦 略:

外交、軍事、CIA、経済制裁等、イラクを解放するため国力を挙げてあらゆる手段を行使する。可能であれば有志連合(コアリション)各国とともに目的と目標を追求するが、必要とあれば単独でも実行する。等

▼作戦環境を分析する

 戦略指針を理解したら、次は、実際の作戦環境の把握に取り組みます。作戦環境とは、陸、海、空、宇宙領域及びサイバー空間を含む情報戦ドメイン(領域)において、統合部隊の運用と指揮官の判断に影響を与えうる諸条件のことであり、これらドメインにおける統合作戦に関係する敵、友軍、中立勢力が対象に含まれます。具体的には以下のようなものです。

① 地理、気象、海象

② 人口動態(人種、部族、イデオロギー、宗教、言語、年齢構成、所得分布、

公衆衛生等)

③ 政治、社会経済(経済システム、政治閥、部族閥等)

④ 交通、エネルギー、通信等のインフラ

⑤ 部隊運用に関する制限(交戦規定ROE、国内法、国際法、受入国協定等)

⑥ 敵、友軍、全勢力の通常戦、特殊戦、CBRN(化学、生物、放射能、核)等能力と戦略目標

⑦ 自然環境(地震、火山活動、汚染、風土病等)

⑧ 毒劇物(TIMs:Toxic Industrial Materials)の所在(大量破壊兵器として

使用される可能性のあるもの)

⑨ 敵の意志決定における心理学的特徴

⑩ 外国大使館、国際機関(IGO)、非政府組織(NGO)の所在地

⑪ 友軍及び敵対勢力の軍事又は商用宇宙アセットの活用状況と可能性

⑫ 軍、個人、組織のサイバー戦に関する能力及び意図

 分析に当たっては、これらの諸条件が、敵、友軍、中立勢力のそれぞれの軍事的エンドステートの達成にいかなる影響を及ぼしうるかを明らかにします。影響を及ぼしそうにないものは対象から除外して効率的な分析となるようにします。作戦環境のうち、特に作戦に影響のある分野とアクターを特定するためには、連載第3回で説明したPMESII(Political, Military, Economics, Society, Information and Infrastructure)枠組みを活用するのが一般的です。

 これらの条件の分析に加えて、作戦上配慮すべき文化、宗教その他の要因の有無を確認することも重要です。

 例えば、「不朽の自由作戦」においては、「イスラムとの戦い」ではなく「テロとの戦い」であることを明確にするために様々な配慮がなされました。

 例えば、作戦名称として当初「Operation Infinite Justice」が検討されましたが、イスラム法学者から「究極の正義」とは唯一神アッラーのみが与えることができるものとの指摘があり、「Operation enduring freedom(不朽の自由作戦)」となった経緯が知られています。

 また、アフガニスタン国内におけるテロリスト根拠地等に対する空爆も、イスラム教の安息日である金曜日には実施しないこととされました。また、ラマダンについては、以前のアラブ人同士の戦いでも戦われてきたため、空爆は続行することとされましたが、祈りの時間には空爆を減らすべきとの助言を受け作戦計画に反映されました。

▼問題を定義する

 戦略指針と作戦環境を理解した上で軍事作戦により問題を解決するためには、生起している複雑かつ不明確な事象を分析し、問題を正しく定義することが大前提です。軍事作戦における問題の定義づけは、次のような手順で行います。

① 現在の作戦環境と作戦終結時において存在すべき作戦環境(望ましいエンドステート)とを比較する。

② ①の違いを解消するために、どの分野・要因をどのように変えるべきかを明らかにする。この場合、分野・要因ごとにエンドステート達成に及ぼすインパクトが異なること、また相互に因果関係があるものがあり得ること等に留意して、作戦の可能性を検討すべき分野を特定する。

③ 特定された分野・要因それぞれにおいて、エンドステートを達成するための変化を起こすのに必要な「効果」とそれをもたらす作戦のイメージを明らかにする。

④ この特定された分野・要因における、「作戦によって変更されるべき問題」が、作戦計画における「定義された問題」となる。

「定義された問題」は、以下のような点が明確になるよう簡潔な文章としてまとめられます。

① 現在の状況とエンドステートにおける状況との違い

② 作戦環境のうちエンドステートを達成するために変えるべきものと変えるべきでないもの

③ 統合部隊指揮官がエンドステート達成のため利用すべき好機及び妨げになる脅威

④ 上級指揮官から要求あるいは禁止・制限されている行動、その他指揮官の行動の自由を制限する外交協定、交戦規定(ROE)、現地の政治・経済状況、受入国支援の状況

 現在の北朝鮮の問題を当てはめると、核とミサイル開発の放棄がエンドステートであると仮定するならば、①は「多数の弾道ミサイルが既に配備され、核兵器とICBMの戦力化が最終段階にあること」となり、②として現有の核とミサイルを破壊すれば足るのか、その開発製造施設も含めて破壊するのか、技術者はどうするのか、金正恩体制は存続してよいのか等を検討して、破壊・無力化すべきものとそうでないものの区別を作戦環境の評価をもとに行うことになります。

 米軍においては、現在このような検討作業の真っ最中だと考えられ、「軍事作戦によって変えるべき問題」=「定義された問題」となりますから、その検討結果はそのまま今後の事態の推移を左右することになります。

▼初期的な作戦アプローチを導き出す

 さて、作戦環境の分析及び問題の定義づけで「必要な効果をもたらすための作戦のイメージ」が明らかになってきたはずです。これをもとに、「作戦アプローチ」を導き出すために連載第6回までに解説した作戦計画上の主要な要素を明らかにします。

 すなわち、戦略指針から①戦略的、軍事的エンドステート、②紛争の性質、歴史、経緯、③各ドメインの物理的要素、情報戦環境、PMESII分析(各勢力)を明らかにします。現在の作戦環境を分析することにより、①政治、経済、社会等、②敵及び味方の重心が明らかになります。次に、望ましい作戦環境をもとに、①軍事的エンドステートと②作戦終結クライテリアが明らかになり、あわせて③敵のエンドステートも把握できるはずです。

 「作戦アプローチ」とは、「エンドステートを達成するために実施されるべき部隊の大まかな行動を示すもの」です。「初期的な作戦アプローチ」の検討では、作戦環境の把握、問題の定義づけにおいて検討したエンドステート、作戦終結クライテリア、重心等をもとに、エンドステートを達成するための具体的な「作戦目標」と、その目標を達成するための「決勝点」が設定できます。そして、この決勝点を連結する「作戦系列」や「非軍事活動系列」を当てはめることで部隊の行動の概要を明らかにすることができます。

 初期的な「作戦アプローチ」ができてくると、さらに検討を深めなければならない部分が明らかになり、検討を進めるにつれ作戦に際しての指揮官の初期的な部隊運用に関する意図も得られることになります。 部隊の概略の動きが描き出されたので、次回は、作戦リーチ、作戦限界点、縦深性、同時性、タイミング、テンポ、フェーズ、分岐策、事後策、(決心点)、作戦休止等を加味して作戦アプローチを完成させることになります。

※本稿は拙著『作戦司令部の意思決定』の要約抜粋で、メルマガ「軍事情報」(2017年10月~2018年3月)に「戦う組織の意思決定入門」として連載したものを加筆修正したものです。