トランプ大統領のアジア歴訪が終わりました。期待されていた「インド太平洋戦略」が明確に語られなかったのを残念に思われた方も多かったと思いますが、トランプ大統領は、8日の韓国国会での演説で「我々を侮ってはいけない。我々を試してはいけない。私は『力による平和』を求める」と述べ、核、ミサイル開発を放棄するよう強く警告しました。こちらは予定どおりでした。

 これに対して北朝鮮外務省報道官は、「トランプの妄言はわれわれを立ち止まらせはできず、核戦力完成へとより速く疾走させる」と強調、核開発加速の意志を強調しましたが、北朝鮮の「挑発」は2か月以上行われていないことになります。

 今回の歴訪で、米国は各国との間で北朝鮮に対する制裁の厳格な実施と更なる圧力を加える方向で一致したと言えると思います。この中でも特に重要なのが日米韓3カ国の軍事面の連携だと思いますが、米国が日韓に日本海で空母3隻との共同訓練を提案し、日本は同意をしましたが、韓国は同意せず、日米と米韓で別々の枠組みの訓練となったようです。これは大変残念なことでした。

 さらに驚いたのは、カン外相が国会で表明した「三不(No)政策」です。これは、①THAADの追加配備を検討しない、②米国のミサイル防衛網に参加しない、③日米韓の軍事同盟化を行なわないというもので、③は当面考えられませんから措くとしても、①と②は、まさに北朝鮮の脅威に対処する上で不可欠な措置だと考えられます。

 中国からのTHAAD配備に関する報復による経済的な損失はGDPの0.5%にも相当するもので、16か月ぶりの「トンネルからの脱出」と報じられていますが、それが苦肉の策だったとしても異例の「政策」です。

 前回、作戦を計画する上での「制約」について述べましたが、この三不政策などは、直接的に作戦レベルの措置を具体的に縛るもので、これから北朝鮮との本格的な対峙に臨むという段階で果たして適切な決定だったのでしょうか。

 第2回で、「政治外交と密接な関係のある戦略レベルから作戦レベルへ示された指針だけでは計画を立てられないことが多い。政治的なレトリックや曖昧な文言を分析して作戦のための使命(目的と任務)を導き出す」という話をしました。逆に言えば、作戦を柔軟に立案するためには、曖昧な部分を残した方針の方がよいとも言えます。外交には、作戦への影響を理解した上での戦略的な曖昧さが望まれるということではないでしょうか。(2017年11月20日記)

 さて、前回までで、使命、目標(系列)、重心といった作戦計画を作るうえで核心となる要素について述べました。実際に計画を作る場合には、手順に沿って作戦環境を分析、把握し、生起し得る事態を予測していますから、作戦の様相が徐々にイメージできてくるはずです。今回は、そのような作戦環境や大まかな作戦の様相がイメージでき始めているとの前提で、引き続き作戦計画上の重要な要素について述べてゆきます。

▼作戦リーチ

 作戦は「時間」と「空間」を活用する「術」ともいわれますが、作戦を構想するに当たっては、まず空間の検討から入り、次いで時間軸に落とし込むのが普通だと思います。

 予定される作戦区域の中で、自己の部隊がその空間や時間をどのくらい活用できるのか(=相手を振り回せるのか)、その能力を把握する必要がありますが、このために統合部隊が軍事力を正常に運用できる距離と期間の限界を「作戦リーチ(Operational reach)」という概念で表します。

 作戦リーチは、まず部隊が燃料の再補給なしで、作戦区域となる場所まで進出して現場で何日間くらい活動できるか、そして携行するミサイル、弾薬等が予想される敵の攻撃にどのくらいまで対処できるかを見積もります。もしこれで想定される事態をカバーできるのであれば問題ありませんが、不足する場合には何らかの措置を講じることになります。

 そこで考えられる措置として、兵力の前方展開、事前集積、兵器の威力や射程の増大、同盟国や有志連合からの支援や契約に基づく業者の役務調達等があり、航空輸送、宇宙・サイバー空間のアセットを最大限に活用することにより作戦リーチをグローバルに拡大できる可能性があります。

▼基地機能の展開

 また、作戦区域の近傍に前進基地を確保することを「基地機能の展開」等といいますが、これにより、基地と作戦目標間を往復する距離が小さくなるので航空機等の出撃頻度や再補給頻度を大幅に向上させられることから統合部隊の戦闘力を効率的に発揮できることになります。

 米国の基地機能の展開手段としては、外国における恒久的な基地の確保から危機発生時の一時的な空母機動部隊の派遣まであり得ますが、政治的、外交的配慮がその決定に影響を及ぼすことが多いので、作戦計画上の仮定事項となる場合があり、不確定要素が大きい場合には当初計画からは除外しておくのが妥当です。

これらの基地機能の展開は、基本的に敵を作戦リーチ内に捉えるように選ばれることになりますが、敵の威力圏に近づくことになりますから、十分なインフラと外交的支援が存在するか、展開部隊への作戦上の支援が得られるか、敵の攻撃に対する一定の安全が確保できるか、などを見極める必要があります。

▼フォークランド紛争での作戦リーチの問題

 フォークランド紛争を例にとると、当時、英国本土から7,000マイル(13,000km)かなたのフォークランド諸島の奪回作戦は後方支援の面から困難と思われましたが、作戦資材については、NATOの有事計画を準用して英国内の30日分の戦時備蓄を流用することで確保し、多数の商船を徴用することで輸送することができました。ただし、積込、輸送の迅速性を優先したあまり戦術搭載(上陸時の卸下の逆順で搭載する実戦に備えた方式、これに対し通常の搭載方式を管理搭載という)がなされなかったためその後の補給や上陸作戦に混乱を生じました。

 最大の問題は前進基地の確保であり、英国は前進基地を取得すべく外交努力を尽くしましたが実現しませんでした。チリは、アルゼンチンとの敵対的な関係から対英支援を承諾しましたが、太平洋側の諸港は作戦に適合するものではなく、その他の諸国は、人道的見地から死傷者に対しては港を開く用意を表明したものの、実質的な援助や支援は拒否しました。長期の商業契約に基づいてフリータウン(シェラレオネ)で燃料を搭載できましたが、それ以南のアフリカ諸国はイギリスを支持せず、サイモンズタウン(南アフリカ)にあるイギリス海軍が建設した軍港さえも使用できませんでした。

 結局使用できたのは、イギリス本土とフォークランドのほぼ中間にある自国領のアセンション島だけであり、人員、物資の中継基地として大きな役割を果たしました。この飛行場と艦艇係留施設を備えた島を活用できたことは極めて幸運であり、これなしでは後方支援は成り立たなかったと言えます。英軍はこの前進基地と空母部隊の組合せでアルゼンチン軍を作戦リーチ内に捉えることができたと言えます。

▼作戦限界点

 作戦リーチが明らかになったら、作戦の展開予測に沿って統合部隊の継戦能力がどの程度維持できるかを見積もります。この指標が「作戦限界点(Culmination)」であり、作戦を継続した結果、もはや作戦の勢いを維持できなくなった時期や空間を指します。

 攻撃側としては、効果的な攻撃を継続できなくなり、防御態勢に戻るか、作戦の休止(後述)を考慮する点となります。この場合、攻撃部隊は、反撃される大きなリスクを負うか、危険を覚悟で攻撃を続行することになります。従って、この作戦限界点に達する前に目標を達成できるよう作戦計画を作成しなければならないことになります。

 防御側としては、攻撃に対する反撃を続行できなくなるか、効果的な防御ができなった時に作戦限界点に達したことになります。防御側は、敵の攻撃部隊を作戦限界点に到達させた上で迅速に攻勢に移行し、敵が防御の作戦限界点に達するよう行動することで勝利を得ることができる理屈です。

 このような作戦限界点の考え方に基づき、統合部隊は作戦の持続に必要な作戦資材とともに、適切なタイミングで作戦区域に展開しなければなりません。指揮官は、作戦行動と同期した後方支援を得つつ、適宜、作戦の速度を調整して作戦限界点に陥らないように指揮することになります。当たり前のことですが、後方支援と作戦は表裏一体といわれる所以です。

▼作戦区域の設定

 部隊の作戦リーチ等が把握されたところで、想定される作戦区域までの距離とその広さとの関係から、作戦区域に到着した時点での継戦能力や、無補給でどのくらい作戦できるか、補給が可能ならばその間隔と量等が分かり、作戦空間をどのように活用できるかという大まかなイメージを描くことができると思います。

 ところで作戦区域とは、作戦、展開基地、上空通過、継戦能力の確保のために、法的、政治的に決定される地理的な区域ですが、部隊の指揮官に対して作戦上の制限を課すだけでなく、むしろ柔軟性やより幅広いオプションを提供するように決定されるべきものです。

 作戦区域には、公知される本来的な作戦のための空間の他に、公知されない訓練区域、移動経路、安全確保、敵味方識別のための区域等、必要に応じて設定される各種の作戦上、戦術上の区域が含まれます。統合部隊指揮官は、その陸、海、空域の境界線を参考にしながら、部隊間の調整、統合、相互干渉の防止を行うことになります。

 フォークランド紛争時の公知された作戦区域としては、イギリスがフォークランド諸島周辺200マイル(370km)を「完全排除水域(TEZ:Total Exclusion Zone))として海上封鎖を行ない、他国の艦船、航空機に対する無警告攻撃を宣言し入域を禁じた例があります。これは、軍事作戦に伴う民間、第三国の船舶、航空機等に対する誤攻撃や副次的被害を防ぐという重要な目的もあったものと考えられます。

 また、現在の北朝鮮をめぐる状況を反映して、韓国紙等は有事の作戦区域とおぼしきエリアをKTO(Korean Theater of Operations)と呼んでいるようです。今回の米空母打撃群との訓練でも海上自衛隊の艦艇はKTO内への入域は認めていないようですが、おそらく公海部分を含んでいると考えられるKTOですが、有事においてどのように運用するのか、邦人輸送なども取りざたされる中、関心が持たれます。

▼縦深性の確保

 作戦空間の活用のため、作戦区域の設定の他に考慮しなければならないものに敵の戦い方を念頭に置いた縦深性の確保があります。これは様々に説明され得ますが、ここでは統合ドクトリンにおける考え方を示します。

 戦術レベルで「縦深」という言葉は、「縦深防御(様々な射程の防御兵器を組み合わせて複数の防御ラインを構成する)」とか「縦深攻撃(様々な射程の攻撃兵器をもって敵の最前線と同時にその後方も攻撃する)」等と使われます。これは縦深という言葉が空間の奥行という意味で使われていると言えます。

 一方、作戦レベルで「縦深性(Depth)」というと、遠距離を迅速に機動し正確な攻撃を行える統合部隊を用いて、作戦空間全般において極力広範囲を高速で行動し、敵に対しても同様の広がりとスピードでの作戦を強いるように戦うということになります。この縦深性は、空間の奥行、幅、高さ(高度)の3次元をフルに活用する考え方ともいえ、戦い方の進化と技術の発展により拡大してきました。このような戦い方をすることにより、作戦地域全体において敵を圧倒し、敵指揮官が対応しきれないような同時発生的な攻撃を行ない、早期に敵に作戦限界点を迎えさせることがポイントとなります。

 なお、縦深性は地理的だけでなく時間的にも適用され得る概念です。時間的な縦深性をもたせた作戦は、将来の作戦の展開を見越した有利な状況を先行的に形成しますから、その先行的な意図を読み切れない敵の意志決定サイクルを混乱させることができます。

▼時間軸で検討する

 作戦計画の時間軸の検討に当たっては、作戦準備のための所要期間、作戦開始(可能)時期、作戦所要期間、終結時期から考えるのが普通ですが、そこには、国内的、国際的な政治、外交上の要求や圧力が働くことが多いといえます。特に作戦開始のための動員開始は、国内外に与える影響が極めて大きいのは当然であり、気象等の季節的要因、文化宗教的な配慮等も重要な要素になります。

 フォークランド紛争では、英国はアルゼンチン軍に占領されたフォークランド諸島を「速やかに」奪回する方針で作戦に着手しました。これは当時、国内政治的な要求に加えて、国際的にも平和的な調停を求める動きがあったため、速やかな作戦着手に加えて、短期間のうちに一定の戦果や既成事実を挙げないと、調停へ向けた流れになりかねず、その場合には奪回作戦を開始できないおそれがあったからでした。そして、当然のことながら、南大西洋の気象、海象は大きな考慮事項であり、本格的な冬の到来までに作戦を終結させることが必須とされました。

 一方、イラクの自由作戦では、作戦準備そのものもさることながら、開戦のための正統性を確保し、有志連合の支援を取り付けるのに多くの時間を要したといえます。作戦準備も、大規模な作戦であるため30万人に動員命令を出す必要がありましたが、イラク国内の兵器査察や外交交渉に対する影響が大きいため、ラムズフェルド国防長官の指示で動員計画等の全体を一挙に下令するのでなく「外交に圧力をかけつつ、その信用をなくさないよう」徐々に発動することとされました。

 この指示に基づき、開戦が4か月前に迫る中、2週間近くかけてTPFDD(ティプフィッド:Time-phased force and deployment data部隊展開の細部計画)の内容が精査され、展開計画を単純な「オン・オフスイッチ」から、徐々に明るさを変える「ディマースイッチ」に転換させ、じわじわと展開する方式に改められました。この結果、毎週2通ほどの展開命令を長期間にわたり、その都度発令することとなり、一部の部隊にはショートノーティスの展開命令が届き当惑させることにもなりましたが、外交を支援するための軍の動員計画として実施され、最終的には所要の作戦準備が完成しました。

 作戦そのものは、全体を極力短期間とすることとされましたが、この場合も、開戦時期等については、砂漠の気候、イラク軍の即応態勢が低くなるタイミング等を慎重に考慮して決定されました。

▼同時性

 作戦空間の検討が進んだら、作戦についての時間軸の検討を本格化させますが、まず追求しなければならないのは、作戦全体の「同時性(Simultaneity)」です。

 同時性とは、戦術、作戦、戦略各レベルにおいて敵の重心に対して同時に作戦を実施することであり、敵の戦闘力を飽和、圧倒し一体性を失わせ崩壊させようとするものです。この同時性を追求するためには、注意深く計画された各レベルの軍事行動をお互いがモニターできる態勢を取り、戦略及び作戦レベルにおける軍事目標達成状況の把握、戦術レベルの指揮官による作戦、戦略全体との関連を理解したうえでの戦闘行動といった緊密な連携が不可欠となります。先進的な指揮統制システムが威力を発揮する分野でもあります。

▼タイミングとテンポ

 同時性に加えて時間軸の検討で重要な要素は、「タイミング(Timing)」と「テンポ(Tempo)」です。タイミングの追求に当たっては、友軍の能力を最大限に発揮させ、敵の能力の発揮を妨げるように作戦を実施することになります。このため、作戦状況全般を把握し、行動の自由を確保し、好機に乗じることのできる余力と即応態勢を保たなければなりません。

 作戦行動のテンポとは、作戦速度そのものに加えて意思決定サイクルの周期を意味し、軍事上の要求に対応して、技術の発達や革新的なドクトリンが採用されたことにより向上してきました。

 統合部隊指揮官は、友軍の戦闘力を長く持続させるためにテンポが上がり過ぎないよう抑えたり、戦役の中のあるフェーズにおいては、テンポを低下させ決戦用の兵力を集結させるための時間を稼いだり、戦闘行動以外の行動を優先したりして、敵指揮官の裏をかくことができます。また、他のフェーズにおいては、逆に一気にテンポを上げて敵の防御能力を圧倒、飽和させるのは戦い方の基本と言えます。

▼抑止段階における考慮

 戦闘段階に至る前の抑止段階における考慮としては、軍事行動のテンポを意図的に低下させて、被抑止側(敵)に状況把握、意思決定、コミュニケーションのための十分な時間を与えることも配慮しなければなりません。

 例えば、危機に際して、潜在的な敵国に圧力をかけるため空母機動部隊の展開をアナウンスしつつ、政治外交レベルでメッセージを送った後、一気に空母を進出させるのではなく、周辺国との共同訓練や、寄港地において戦力を誇示しながらタイミングを見計らって進出させることはよく行われることであり、現在の北朝鮮危機にその好例を見ることができます。

 最後に、このような統合部隊指揮官の作戦テンポを管制する能力を持たせるためには、友軍部隊に対して周辺国の協力のもと領域通過や港湾、空港の使用支援を得て、戦域へのアクセスの自由と行動の自由を確保させることが必須の条件と言えます。これも北朝鮮危機への対応のため日本など周辺国が協力してゆくべき分野であり、情勢の展開に合わせて民間港湾、空港、航空路等に関して調整が要請されることになると思います。

※本稿は拙著『作戦司令部の意思決定』の要約抜粋で、メルマガ「軍事情報」(2017年10月~2018年3月)に「戦う組織の意思決定入門」として連載したものを加筆修正したものです。