リチャード・アーミテージ元国務副長官ら米国の知日派らが10月上旬、4回目の「アーミテージ・ナイ報告書」を発表した。その提言が自衛隊の作戦運用に与える影響と課題について考えてみたい。

 提言で最も重要なのは、「日米共同コンティンジェンシープラン(事態対処計画)」の作成だろう。日米両政府が共同で対処すべき緊急事態を定義したうえ、自衛隊と米軍の部隊運用にそのまま活用可能なレベルの詳細かつ具体的な作戦計画を策定するものである。

 2012年の前回報告は「作戦構想の整合」を提言した。米軍の「エア・シーバトル」と自衛隊の「動的防衛力」の両構想を概念的にすり合わせ、整合性を取ることだった。今回は、個別の事態ごとに自衛隊と米軍の行動を詳細に詰め、後方支援を含めた作戦計画の完成度を「ファイト・トゥナイト(今夜戦う)」態勢に高めることを目指す。

 急がれるのは、朝鮮半島有事における非戦闘員退避活動(NEO)や弾道ミサイル対処だ。北朝鮮の挑発に即応できる米韓両軍レベルの完成度が望ましい。

 日米両政府の戦略目標や自衛隊と米軍の作戦目的を整合させるとともに、現場の戦術レベルで部隊行動基準(ROE)を調整する必要がある。危機の進展に応じて日米両国がどう意思決定するか、事前に打ち合わせておくことも大切だ。

 取り組むべき作業は膨大になるが、これにより、自衛隊と米軍の連携や対処能力は格段に向上する。日米同盟の実効性は高まり、防衛協力は新たな次元に引き上げられるだろう。

 報告は、在日米軍基地を自衛隊が管理する日米共同運用の拡充や、緊急時の米軍による日本の民間港湾・空港の使用拡大、自衛隊と米軍の統合運用の強化も掲げている。いずれも新たな作戦計画にきちんと対応する形で進めるべきだ。

 報告は、流動的な朝鮮半島情勢を踏まえ、韓国との情報共有や軍用品の相互提供を提言している。日韓両政府は既に、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を結んでおり、今後は物品役務相互提供協定(ACSA)の締結が課題となる。

 昨年11月の日米韓共同訓練で、韓国は有事の作戦区域(KTO)への海上自衛隊艦艇の進入を拒否した。反日的な慎重な韓国世論に配慮したのだろうが【反日的な韓国世論や中国に対して配慮したのだろうが】、北朝鮮危機の再燃に備え、抑止力を向上させるには、日米韓3か国の中で最も脆弱な日韓の安全保障協力を深めることが欠かせない。

 アーミテージ氏らは過去3回の報告で、日本による集団的自衛権の行使容認、秘密保全の強化、日米共同訓練の質的向上などを提言した。これらは安全保障関連法や特定秘密保護法の制定に反映され、日米間の協議、共同活動の積み重ねにより具体化された。その結果、報告が指摘する自衛隊に対する「時代錯誤的な制約」は大幅に改善された。

 緊急時に自衛隊が真に機能する態勢を構築するには国民の理解を得つつ、様々な課題に着実に取り組むことが求められよう。

※読売新聞「論点」2018年10月17日掲載