2007年2月9日、衆議院予算委員会で、石破茂元防衛庁長官が次のように発言している。

 「昭和16年4月1日に、今のキャピトル東急ホテルのあたり、首相官邸の近く、当時の近衛内閣でありますが、総力戦研究所という研究所をつくりました。ありとあらゆる官庁の30代の俊才、軍人、マスコミ、学者36名が集められて、もし日米戦わばどのような結果になるか、自由に研究せよというテーマが与えられた。

 8月に結論が出た。緒戦は勝つであろう。しかしながら、やがて国力、物量の差が明らかになって、最終的にはソビエトの参戦という形でこの戦争は必ず負ける、よって日米は決して戦ってはならないという結論が出て、8月27日に、当時の近衛内閣、閣僚の前でその結果が発表されるのであります。

 それを聞いた東條陸軍大臣は何と言ったか。まさしく机上の空論である、日露戦争も最初から勝てると思ってやったわけではない、三国干渉があってやむを得ず立ち上がったのである、戦というのは意外なことが起こってそれで勝敗が決するのであって、諸君はそのようなことを考慮していない、この研究の成果は決して口外しないようにと言って終わるわけですね。

 なぜあの戦争は負けたか。要は、輸送というものを徹底的に軽視したからですよ。(略)戦争を始めるに当たって損耗率というのを計算しなきゃいけない。(略)そんなデータはどこにもなかった。(略)とにかく出せということで、第一次世界大戦でドイツの潜水艦にイギリスの商船が沈められた、その損耗率の10%、よしよし、これだということでこの数字を入れた。それならばやれるなということであの戦争になってしまった。しかし、その数字がでたらめであって、結果として、この国はああなってしまうわけですね。

 なぜあの戦争になったのか。それは、政治をつかさどる者が、おのれも知らず、そしてまた相手の国力も知らず、そんなことできないじゃないかと言ったらば、きさまは大和魂をどこに置いた、それでも日本人か、こう言われてしまって、前線に飛ばされるか、首になるか、それだったらば、(略)やっちゃえ、やっちゃえということで、とうとうあんなことになってしまったということだと私は思っています。」

 石破大臣が発言しているのは、猪瀬直樹著『日本人はなぜ戦争をしたか 昭和16年夏の敗戦』(2002年、小学館)からの引用なのだが、現在は手に入りにくい。代わりに同じ著者の『空気と戦争』(2007年、文春新書)が出ていて、こちらは東工大での講義が元になっていることからサッと読みやすい。後方軽視、精神論重視等は、今も自戒しなければならない重要な視点だと思う。