19世紀末に現れた地政学は、ドイツをはじめとする大陸国家(ランド・パワー)とアメリカやイギリスといった海洋国家(シー・パワー)の流れをもって発展してきた。

 大陸国家は、陸上の長い国境線を持ち、領土内の資源や生産を重視する国だ。当時の帝国主義は適者生存と弱肉強食の考え方だったので国境線を接している国々との厳しい生存競争を強いられた。

 一方、海洋国家というのは、島国や長い海岸線をもつ国で、生存や繁栄を海洋資源あるいは他国との交易などに大きく依存している国である。このため発達した海運業や漁業、優れた海洋開発力などとともに、これらの活動や海上交通路を保護し自国を侵略から守るための海軍力を持つ。

 必要な資源やエネルギーは他国から輸入し、航海の自由が確保され外国の港湾も自由に使えればよいのであって、あえて征服、占領する必要はない。むしろ他国の征服や占領は国力の無駄遣いというくらいの考え方だ。そして、海洋国家が自国の安全を保つためには、島国であれば対岸の大陸国家が、また大陸の一国家であれば近隣の国々が、それぞれ強大化、敵対化しないようにすることが生存戦略のポイントになる。 

 これに対し、ドイツのハウスホーファーは、「国家が発展的生存を維持するに必要な力を持つためには、国民が生活活動をするためのある大きさの領域を持つ必要があり、また、国家の発展力に応じた領域を持つのは、国家の権利である」として「生存圏」という考え方を提唱した。この考え方は、ヒトラーに巧妙に利用され、日本の「大東亜共栄圏」にも影響を与えた。