北朝鮮情勢が世界の耳目を集める一方で、中国は中台統一に向け着々と布石を打っている。すでに台湾の経済は中国の強い影響下にあり外交空間も大きく圧迫されるなか、軍事バランスは年々中国側に有利となっている。
台湾は、台湾海峡とバシー海峡というチョークポイントを直接管制でき、太平洋に面し中国の「第一列島線」の中央という戦略的な位置にある。このような台湾が中国の影響下に入った場合の影響は計り知れない。
第一に、中国海空軍は太平洋に面した絶好の根拠地を得ることになり、さらにシンガポールが影響下に入った場合にはマラッカ海峡までの「北京の海」が完成することにもなる。シーレーンへの潜在的脅威の増大が懸念される。
第二に、近接阻止/領域拒否(A2/AD)戦略が強化され、西太平洋が米中角逐の舞台となる可能性があり日米同盟への大きな試練となる。
第三に、これらの結果として東南アジア全体が中国の強い影響下に置かれ、戦後築いてきた日米の政治的・経済的影響力が弱められ、地域情勢の歴史的転換点となる可能性が考えられる。
米トランプ政権は、既に中国との大国間競争に舵をきり、国防戦略では米軍の精強化と日豪印などとの「中国包囲網」構築を目指している。鎖の強さが最も弱い環によって決まるように、この「包囲網」の強さは台湾自身のレジリエンス(強靭性)に大きく左右される。米国の2019会計年度国防権限法で、台湾の軍事力の評価、兵器調達、訓練の増大、高官交流などが盛り込まれたのはこのためでもある。
これらを踏まえ、中台を含む地域の安全保障にコミットしている日本は、米国とともに台湾との連携強化に積極的に取り組むべきである。
第一は高官対話である。台湾は尖閣諸島に関して中国とは協力しない立場をとっている。また、中国が南シナ海領有を主張する根拠である「11段線」は、もともと1947年に中華民国が主張したものであり台湾は南シナ海問題の当事国ともいえる。これらホットスポット等に関する高官の対話を行ない台湾との良好な関係を保つ意義は極めて大きい。
第二は人道支援/災害救援(HA/DR)訓練である。米国防権限法は多国間共同訓練「パシフィック・パートナーシップ」で米病院船の台湾への寄港検討を求めているが、同訓練に毎回参加している日本も同盟強化のため軍民チームの参加等を追求すべきである。
第三は、シーレーンの安全確保のため日米等が中国艦艇と行っている「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES)」を台湾艦艇との間にも適用することである。あわせてCUESを所管する西太平洋海軍シンポジウムへ台湾が招へいできれば海洋国家同士の連携強化に資する。
中国との大国間競争は既に現実の問題であり、これに対応するためには日米同盟と民主海洋国家間の連携が必須である。日本はこの目的のため、南シナ海でのプレゼンスに加え台湾との連携を強化して主体的な役割を果たすべきである。