アイスクラス(砕氷、対氷性能の基準)を持たないロシアの液化天然ガス運搬船「アークティック・メタガス(Arctic Metagaz(138,028㎥))」が進路を反転し、北極海航路の海氷の端近くで停船したままである。これは、夏の間であっても、北極海の海運における非アイスクラス船舶の課題を浮き彫りにしている。
「アークティック・メタガス」は、認可されたArctic LNG 2 プロジェクトに就航するロシアの「影の船団」の一隻だが、進路を変更してから約48時間後も東シベリア海でアイドリングを続けている。同船は8月29日、核砕氷船「シビル」の先導で夏の海氷が残っているところを通過していたが、同日真夜中過ぎに後退し始めた。
この船はもともと、アジアの買い手を探して認可されたガスを積んで8月19日頃にロシアのムルマンスク港を出港した。8月29日から31日にかけての同船のAISトラックは、海氷の端で0ノットで後退し、アイドリングしていることを示している。
砕氷船「シビル」は、北極海航路の持続的な夏の航路を作るため東シベリア海で数週間行動しているが、ロシアの氷海図は、ペベック近郊の海域で、接地されたハンモックを含めて10〜60%の範囲でかなりの氷の被覆率を示しており、夏シーズンの終わりに海氷がルートの東端を塞いでしまったのは2年連続である。
夏シーズンでも氷の状態を予測するのは困難とされており、最近、東シベリア海で数隻のLNG船の運航に支障が出た。高いアイスクラス級LNG運搬船も過去に船体損傷を受けたことがある。2021年、Arc7アイスクラスLNG運搬船が推進ユニットの1つに損傷を受けた。同年、海氷が早期に発生したため、数隻の砕氷船が関与する大規模な救助活動が必要となり、約3ダースの船舶を氷のない海域に護衛したことがある。
「アークティック・メタガス」が何らかの損傷を受けたかどうかは不明である。ロシア当局は長い間、この航路を新たな海運回廊として宣伝してきたため、今回のような事案をあまり宣伝したがらないかもしれない。北極海航路管理局は、航路を航行しているすべての船舶のログを毎日公開しているが、「アークティック・メタガス」は公開記録から削除されている。
「アークティック・メタガス」が海氷を突破しようとする試みは今のところ中止され、ロシアがArticLNG2施設から認可ガスを輸送する能力に影響を与える可能性がある。アイスクラスを持たない別のタンカー「ラ・ペルーズ(La Perouse)」は、北極海航路のさらに西側で待機したままである。
先週、ガス生産施設の主なオーナーである「ノバテック(Novatek)」社は、1年ぶりに中国の買い手を見つけた。北極圏で生産された100万トン以上のLNGは、今後数週間以内に中国に運ばれる可能性がある。
しかし、定期的な出荷の見通しは依然として暗いままだ。夏の出荷時期は10月中旬までに急速に閉まり始め、ノバテック社は氷の中をLNGを運ぶのに適した船舶を探すことになる。現時点では、高アイスクラス級のArc7 LNG運搬船「クリストフ・ド・マルジェリー(Christophe de Margerie)」と、自由に使える低中型カテゴリーの船舶が数隻しかなく、冬期も含めた定期的な運行を維持するには不十分である。
参考資料:”Russian ‘Shadow Fleet’ LNG Carrier Without Ice-Class Stops, Reverses on Northern Sea Route Near Ice-Edge,”(Malte Humpert, September 1, 2025, gCaptain)