1903年
・米国は、地政学的重要性から運河とその周辺地帯を管轄下に置くため、1903年、コロンビアとの間で「ヘイ・エルラン条約」を結んだが、コロンビア議会が批准しなかった。
・このため米国政府は、同年、強引にパナマの独立派に「パナマ共和国」の独立を宣言させ、当時のセオドア・ルーズベルト政権が国家承認。直後に「パナマ運河条約」を結び、運河の建設権と運河の両側5マイルを「運河地帯」として永久租借権を得て建設に着手した。
1914年
・難工事を克服して運河は1914年8月に開通、運河収入はパナマに、運河地帯の施政権と運河の管理権は米国にそれぞれ帰属することになった。
・運河地帯には米軍施設が置かれ、中南米における米国の軍事拠点となった。
1964年
・反米暴動起きる。
1968年~77年
・軍事クーデターによって誕生したトリホス政権が運河の完全返還を強く主張。
・1973 年からニクソン、フォード、カーターの各政権で交渉を行い、1977年、カーター大統領が「新パナマ運河条約」に調印。当時、この条約は多くの保守派から猛烈に反対された。
・新パナマ運河条約:
-軍艦を含むすべての船舶に対して中立無差別な通航が保証される国際運河であることの再確認。
-1979年に主権をパナマに返還し、その後20年間は運河の管理を両国共同で行う。
-条約にもとづき1999年12月31日に米国は全施設を返還し、米軍も完全に撤退。
1983年
・ノリエガ将軍、事実上の最高権力者となり独裁体制を敷く。米CIA、麻薬対策に協力。
1986年~87年
・ノリエガ将軍、対米麻薬密輸、マネーロンダリング、反ノリエガ派暗殺疑惑。
1988年
・米支援でのノリエガ解任に失敗。クーデター未遂事件。
・レーガン大統領、パナマ在米資産凍結、パナマ運河使用料支払い停止。
1989年
・ブッシュ大統領、「麻薬戦争」。
・5月、パナマ大統領選挙を巡り混乱。暴動、クーデター未遂発生。米軍人殺害、米軍施設侵入発生。
・12月、米国、パナマ侵攻(「大義名分作戦」Operation Just Cause)。圧倒的な米軍の勝利。
-ノリエガの煽動に対する米国の自衛権発動との主張。(国際法違反の見方もあり)
-ノリエガ独裁体制の変換、在パナマ米人の保護、パナマ運河条約の保全。
-バチカン大使館に逃れたノリエガ将軍は90年1月に米軍が拘束。
-パナマ国防軍は解体、国家保安隊に再編。
1997年
・香港系企業、バルボア港(太平洋側)とクリストバル港(大西洋側)の管理契約締結。
1999年
・米国、運河返還、米軍撤退。(※)
2013年
・中国、「一帯一路」構想発表。(2025年現在、中南米22ヵ国が参加)
2016年~
・中国、台湾を国際的に孤立させる「断交ドミノ」開始。
2017年
・パナマ、台湾と断交、中国と国交樹立、一帯一路参加覚書。
2018年
・習近平、パナマ初訪問。大型会議場、大型客船ターミナル整備。
2021年
・港湾管理契約更新(2047年まで延長)
2024年12月
・21-22日、トランプ氏が運河返還要求
-パナマ政府が米国の商船と海軍艦船に水増しされた通航料金を請求している
-カーター大統領が愚かにも1ドルでそれを手放したとき、パナマだけに管理を委ねたのであって中国に委ねたわけではなかった
-もしより良い取引ができなければ、「パナマ運河を全面的に、迅速に、疑問の余地なくアメリカ合衆国に返還するよう要求する」と警告。武力行使の可能性も示唆。
・ムリノ大統領、「我々の運河と我々の主権に関して、我々全員がパナマの旗の下で団結する」
・中国外務省、運河は「国家間の接続性のための黄金の水路」。中国政府のパナマ運河地帯に対する米国の支配を終わらせるための冷戦期からの長年の努力に言及しパナマ政府への支持を表明。
2025年1月
・20日、トランプ大統領、就任演説でパナマ運河の「取り戻し」を
重ねて表明。
2025年2月
・2日、ルビオ米国務長官パナマ訪問、中国をけん制。(就任後初の訪問地に中南米は1912年以来)
-香港企業が出入口を管理しているのは受け入れられない。紛争時に中国政府が運河の閉鎖を命じれば、米海軍の艦隊がインド太平洋に迅速に到達できない。
-ムリノ大統領、香港系企業の監査開始、一帯一路覚書2026年の更新せず前倒し終了の検討表明。
・4日、パナマ、港湾を管理する香港系企業との管理契約解除を検討と報道。(米ブルームバーグ)
・5日、米国、米政府船舶の無料通航をパナマが承認と発表。パナマは否定。
・6日、パナマ、「一帯一路」からの離脱を中国に通知。
-中国外務省「圧力をかけて『一帯一路』の協力を台無しにする米国の行為に断固反対する」
2025年3月
・4日、米国資産運用会社ブラックロック、香港企業CKハチソンホールディングスからパナマ運河の主要2港の運営企業の株式90%、また、世界23ヵ国で港湾40カ所を運営するCKハチソン傘下企業の株式80%を取得することを発表。総額228億ドル(約3.4兆円)。(ブラックロックCEOラリー・フィンク氏はトランプ大統領と旧知)
-CKハチソン、「今回の取引は純粋に商業的なもの、最近の政治的ニュースとは一切関係ない」
・18日報道、香港政府、国家市場監督管理総局が売却の調査開始。
・22日報道、3月に米軍内で運河を「取り戻す」計画が検討され、軍事占領も俎上に載る
・30日報道、習近平国家主席激怒、売却阻止に向け圧力。中国メディア「中国人への裏切り」
-4月2日予定の最終文書署名が延期
-香港財界、「民間企業への包囲は国際的な金融、海運の中心地としての香港の評判を傷つける」
2025年4月
・7日、パナマ監査当局、当該企業の不正を指摘する監査結果公表。
-契約更新に関連し3億ドル以上の未払いなど複数の違反、会社役員と当局責任者を刑事告訴
-不正操作の結果次第では傘下企業の運営権(1997年契約)が取り消される可能性
・8日、パナマ検察当局、CKハチソン傘下企業と政府との契約につき不正疑惑で捜査開始。
・8日、ヘグセス国防長官パナマ訪問、「中国はパナマ全域で監視活動を行う可能性がある」。
-運河防衛など安全保障協力で一致、覚書で米軍は運河沿いへの一時的な駐留が可能となる
・10日、トランプ大統領、「我々は多くの部隊をパナマに移動させ、失っていた領域を埋め戻した」
・22日、米国防総省は「歴史的勝利」と総括
※ 運河管理上の問題点
・かつて米国政府が運河を管理していた時期、米国は運河を国際公共財として位置づけていたため、通航料は非常に低く設定
・1999年にパナマ政府が引き継ぐと収益重視の方針を打ち出し、2000年以降20年間、毎年3.5%の値上げを行うことを発表し、利用国から強い反発
-パナマ運河庁は、船種、トン数や全長など船舶の大きさ、貨物の積載量に応じて定められた通航料を徴 収していたが、ガトゥン湖の渇水を理由に2020年2月からは追加料金
-2024年9月からは通航枠のオークション制度を導入し、国際的な需要に応じて料金が変動する仕組みとなったが、混雑時には極めて高額になる例が増えている。
例)2003年、クルーズ客船「コーラル・プリンセス」22万ドル
2023年、LPG運搬船「ブルームバーグ」398万ドル
・高額かつ通航枠の減少で1週間前後待たされるケースも珍しくなくなると、運河通航を諦めて南アメリカ回りを選択する船も増加
-クルーズ客船会社のなかにはパナマ運河を通航するプログラムをキャンセル
-大型コンテナ船は喫水を浅くするためにコンテナの一部を地峡を横断する鉄道に積み替え輸送
資料:一般報道