日米豪印クアッドの一員であるオーストラリア。あの国も海上交通路の安全確保には苦労した歴史がある。中国の脅威に対抗して、日本では見られない「Marchant Navy」についての議論があるようだ。 ビクター・アブラモビッチ氏の小論の概要は以下のとおり。

 オーストラリアが海上貿易の混乱に対して脆弱であることはよく認識されている。2021年には貿易量の約99%、金額にして7,550億豪ドル相当を海上輸送に頼っている。これは経済的繁栄のための貿易だけでなく、生存にかかわる物資、たとえば燃料の91%、医薬品の90%の供給についてもいえることである。

 これらのリスクに備える豪政府の選択肢としては、物資の備蓄を含めて多岐にわたりうるが、通常の貿易が長期間にわたって混乱した場合には、やはり重要資源の海上供給が必要になる。この点においてオーストラリアは三つの憂鬱な状況に直面している。

1 危機的状況下では、オーストラリア籍船(豪政府の管理下にある船)だけがオーストラリアのために運航されるよう徴発されうる。しかし、オーストラリアの国際貿易を行っている約6,000隻の船舶のうち、オーストラリア籍船はあらゆる大きさの船舶(2,000トン以上)のうち4隻のみであり、供給を保証するには全く不十分である。

2 さらに、海上貿易に対する軍事的リスクは増大している。かつては、商船にとっての主な脅威は、小舟に乗った軽武装の海賊だった。現在、商船を攻撃しているフーシ派は、様々な自爆ドローン、対艦巡航ミサイル、弾道ミサイル(ASCMとASBM)、ヘリコプター攻撃を組み合わせており、同様の集団もこれらを模倣する可能性が高い。国家レベルでは、オーストラリアの主なリスクは世界で最も強力な海軍を擁する中国による封鎖であり、中国は依然としてその戦力を拡大しており、現在はその戦力をキャンベラの裏庭に配備するに至っている。

3 ところが、こうした増大したリスクを管理する能力は低下している。基本的に海上輸送を確保するためには、海軍により商船を護衛することになるが、民間船舶はドローン、対艦巡航・弾道ミサイルを迎撃するためのセンサーと武器を持たない。オーストラリアは6,000隻の商船を保護することはおろか、海軍(RAN)の10隻のフリゲート艦や駆逐艦でさえ十分な乗組員を確保することもできない。だからこそ、オーストラリアは世界の海洋秩序を維持するために、依然として世界有数の艦隊であるアメリカ海軍に依存しているのだ。

 しかし、米海軍の貢献には疑問が残る。艦隊は過去数十年で最小かつ最も古く、フーシ派との戦いで弾薬の備蓄が枯渇しているため、新たな危機が発生した場合、それらに効果的に対処できるかどうかは分からない。さらに、トランプ政権は、グローバルな安全保障の提供者であることをやめるか、そのサービスに対して法外な料金を請求する意思を示している。従って、たとえアメリカ海軍が可能だとしても、米国政府は代償なしには乗り気でないかもしれない。フーシ派に焦点を当てたアメリカ海軍の作戦には、年間約80億豪ドルの費用がかかっている。

 このようにオーストラリアの状況を説明した上で、低コスト・リスク、乗組員不足への影響を局限する解決策としてアブラモヴィッチ氏は「武装可能商船」のアイディアを提示している。

 このアイディアは、2023年の豪政府の「戦略艦隊報告書(Strategic Fleet Report)」において「商船」という用語を使用せずに提案されていたものだ。それは、12隻(理想的には50隻)の大型船を商業的に所有および運航し、有事に徴用することを前提に豪政府が運航コストの補助として一隻あたり年間約800万豪ドルを支給するというものだ。

 報告書では武装については触れられていないが、オーストラリアは過去、簡単に武装を装備・撤去できる限定的な自衛能力を備えた防御装備商船(Defensively Equipped Merchant Ships: DEMS)や船団を守るためにより重武装を施した武装商船(Armed Merchant Cruiser: AMC)を保有した歴史がある。「武装可能商船」は、オプションでDEMSやAMCのように簡単に取り外し可能な武器で武装される。

 DEMSは、わずかに改造された20フィートと40フィートの輸送コンテナの上にファランクス砲とSeaRAMミサイルシステムを搭載することができる。一方、AMCは船団を防護するためにMk70ランチャーユニットを装備することができ、40フィートのコンテナに4つの大きなミサイルセルを装備する。1500㎡の甲板面があれば、50基のランチャーに200発のAGM-158C対艦巡航ミサイル(ASCM)を搭載することができ、豪海軍の護衛艦艇による遠隔操作で中国艦艇を遠ざけることができる。

 これらのコンテナ化された武器は、50隻の武装商船にそれぞれ800万豪ドルほどで装備できるので4億豪ドルの費用となるが、8隻のアンザックフリゲートが3億7,400万豪ドルかかったことに比べれば十分に有効な方策といえる。また、取扱いの要員もごく少数で済むため、人的資源に対するインパクトも小さい。

 武装商船は、軍艦に取って代わるものではないが、オーストラリアの海上輸送を強化するための安価で省人化された方法として大きな可能性を秘めているため、十分に検討する価値があると考えられる。

参考資料:

Victor Abramowicz, “Should Australia rekindle its Merchant Navy?” (Mar 6, 2025, The Lowy Interpreter)