東京を訪問中の「プリンス・オブ・ウェールズ」の威容は素晴らしいが、英国海軍は、現在、いくつかの重要な分野で任務を果たせていないとの分析。基本的な作戦能力を維持するために同盟国の支援に過度に依存していることは多くの分野で明らかで、政治的な理由から国防省はそれを認めようとしないようだが、問題は今やあまりにも広範囲に及んでいるため、能力の欠如は明らかで友好国や同盟国が言及するのが憚られるほどだ。

この状況は、長年にわたって国防予算を縮小し、新艦建造の決定を遅らせてきた英国政府の責任であり、新造艦が引き渡される前に現存の艦艇が除籍されている。同時に、運用任務を遂行するために建造される艦艇の数が不十分であり、兵員採用と離職率の危機によって状況はさらに悪化している。この問題は艦隊全体の運用能力に影響を与えている。

インド太平洋では、空母「プリンス・オブ・ウェールズ(Prince of Wales, R09)」が長期展開を続けている。しかし、イギリス海軍は、45型駆逐艦「ドーントレス(Dauntless, D33)」と23型フリゲート「リッチモンド(Richmond, F239)」の2隻のみを随伴させており、残りはノルウェー、スペイン、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドから艦艇が入れ替わりで派遣されている。

また、空母打撃群は今回の行動の半分をノルウェーの補給艦に依存しており、イギリス海軍は巡航全体にわたって補給艦「タイドスプリング(Tidespring, A136)」を配備できなかった。一方、甲板上の艦載機を見ると、空母は搭載予定の半分にあたる2つのF-35飛行隊しか乗せていない。これはイタリア海軍のはるかに小さな空母の搭載機数だ。これは親善訪問のための軽武装であるとかNATOの結束を示すものとみることは可能かもしれないが、以下のような深刻な状況は事実として存在している。

英海軍の6隻の45型駆逐艦のうち、運用されているのは2隻のみで、「デアリング(Daring, D32)」は3,000日以上続いた改修を経てようやく復帰しようとしている。残りの8隻の23型フリゲートは30年前のもので、非常に困難な状態で運用し続けており、その中には「ランカスター(Lancaster, F229)」も含まれているが、今年バーレーンから交代艦なしで撤退する可能性が高いと噂されている。23型は26型に置き換えられ、「グラスゴー(Glasgow)」は2028年に就航する予定で、31型は「ベンチャーラー(Venturer)」が2027年までに就役する予定だ。

建造計画の遅れがなかったとしても、2026年と2027年にはイギリス海軍はフリゲート艦5隻未満にまで減少するリスクがある。また、8月31日に発表されたノルウェーの26型フリゲート5隻の発注により、建造枠の再配分を通じてイギリス海軍向けの26型フリゲート8隻のうち一部の引き渡しが遅れる可能性もある。

潜水艦の分野では、新しい核弾道ミサイル潜水艦の発注が遅れているため、ヴァンガード級潜水艦は長期にわたって運用不能に苦しんでいる。海上には常に1隻を配備する必要があるため、3か月の配備予定が頻繁に延長され、2023年には6か月に延長されたケースもあった。配備が長引くと、乗組員の精神的健康や離職の問題など、一連の問題が発生し、必然的に搭載されたシステムが故障したり、定期メンテナンスが遅れたりして、原子力潜水艦の安全が懸念される事態が発生しかねない。ヴァンガード級を設計寿命をはるかに超えて運用した場合の影響は、少なくとも現在建造中の新しいドレッドノート級が就役し始める2030年代初頭まで続くだろう。

攻撃型潜水艦の状況も同様だ。最後のトラファルガー級潜水艦「トライアンフ(Triumph, S93)」は7月に退役した。建造される7隻のアスチュート級潜水艦のうち、5隻が就役しているが、運用されているのは1隻のみで、おそらくパトロール任務についている戦略原潜の防護についていると考えられている。依然として強力なロシアの潜水艦部隊に対抗できるものは何もなく、おそらくそれが、ノルウェー海北部での最近のロシアの潜水艦の行動情報に対して、莫大な費用をかけてP8ポセイドン哨戒機でカバーされなければならなかった理由なのだろう。

海上の艦隊を支援する艦隊補助部隊は人員の危機に見舞われており、おそらく4隻の艦艇しか海に出ることができないだろう。

艦隊の唯一の健全な構成要素はリバー級哨戒艦であり、そのうち5隻は歴史的なイギリス海軍の世界的なプレゼンスを維持するために配備されている。これらの艦艇は駆逐艦とフリゲートの不足を補っているが、対空や対潜の能力は持っていない。同じリバー級のタイ海軍バージョンは76mm砲とハプーン対艦ミサイル、オマーン海軍バージョンは76mm砲とエグゾセミサイルを装備しているが、本家のイギリス海軍ではコスト上の理由で30mmブッシュマスター機関砲しか装備していない。

今後数年間、建造中の艦艇が就役するまで、イギリス海軍の計画立案者は、不測の事態に備えることができる艦艇が非常に少ないため、作戦上の緊急事態が発生しないことを祈ることになるだろう。潜水艦による核抑止力を維持するのにも苦労するだろう。避けられない危機に対処するために湾岸地域には掃海艇が1隻あるのみだ。ガザとウクライナでの戦争によって生み出された問題は継続し、脅威は増大しているが、能力の欠如の深刻さはあまり認識されていないようだ。

参考資料:”UK Denies the Royal Navy Cannot Meet Operational Tasking,”(Published Aug 31, 2025 2:10 PM by The Maritime Executive)