トランプ政権がスタートして、グリーンランドやパナマ運河のことが話題になっているが、地政学的な観点からはお膝元のアリューシャン列島のことも忘れないで欲しいと思う。

 アラスカ半島から西に1,000マイル以上伸びるアリューシャン列島は、米西海岸から東アジアへの大圏航路に接し、太平洋から北極圏への入口を形作る地政学的に重要な地形だ。太平洋戦争ではアラスカの防衛に当たったバックナー少将が同列島を「日本の中心を指す槍」と表現したが、日本もこの脅威を認識しダッチハーバーに対して空襲を行いキスカ島とアッツ島を占領し、米軍の日本本土に対する作戦の足場となるのを防いだ。

 最近では2023年8月、中国とロシアは列島近くで11隻の艦艇による合同哨戒訓練を実施したが、これは北極圏に対する両国の関心の高さを示すものだろう。米コーストガード中佐のスティーブ・ハルスは大要以下のとおり、アリューシャン列島を戦略的に活用すべきであると論じている。

 米海軍はもともとアリューシャン列島の中央部にあるアダック(Adak)島に基地を持っていたが、1997年に閉鎖した。アラスカ州選出のサリバン上院議員は、2021年、同基地の戦略的価値に着目して、同基地の再開に関心を持っていると述べた。

 北米とアジアを結ぶ最短距離上にあるアダックは太平洋を横断するSLOC(海上交通路)に最も近く、米海軍の艦艇にとってこの上ない中継地点となる。しかもそこが北極圏へのアクセスをコントロールできる列島線の要衝となればなおさらだ。ちなみにサンディエゴから沖縄までの航海でアダックに寄港すると5,700マイルになるが、ホノルルに寄港した場合には6,300マイルとなり、15ノットだとほぼ2日の航程差となる。

 さらに重要なことは、台湾からの距離がアダックの3,200マイルに対してホノルルは4,500マイル離れていることだ。つまり、アダックはグアム以外で台湾に最も近い米国の港となっている。台湾海峡危機についてのウォーゲームで見られる中国の対応例に、第1列島線と第2列島線にある米軍基地を攻撃するものの、さらなるエスカレーションを恐れて米国領土への攻撃は躊躇するというのがある。アダックは中国本土から遠距離にあることと米国領土であることから、弾道ミサイルの脅威がいくぶん低くなるといえるだろう。そのことが、西太平洋で活動する米軍部隊の重要な中継、補給基地として機能する可能性が考えられる。

 第二は、航空基地の拡充である。アリューシャン列島西部、アダック島の西350マイルのシェミヤ(Shemya)島には、アレクソン航空基地(Eareckson Air Station)があり、ここに長距離爆撃機や空中給油機を支援できる空軍基地があれば、大きな抑止効果を持つことになるだろう。

 米国は空母などの高価値アセットを中国の弾頭ミサイル交戦圏内に展開するのではなく、長距離ミサイルを搭載した爆撃機を配置して、より安全なスタンドオフ距離から中国の標的を捉えられるようにすれば、空母などの脆弱性をカバーし、米国の損失を減らすことができる可能性がある。

 シェミヤ島から台湾までの距離は2,900マイルなので、最大飛行距離が6,500マイル以上あるB-1BおよびB-52爆撃機は台湾海峡へのミッションを空中給油なしで実施できることになる。このことはB-2ステルス爆撃機も同様で、6,000マイルの飛行距離と数百マイルの射程を持つAGM-158C長距離対艦ミサイルの組合せで任務を完了できるだろう。オーストラリア、ハワイ、ミッドウェー島は空中給油なしでそのような任務を行うには遠すぎるため、アリューシャン列島に基地が開設された場合の優位性は明白だ。

 台湾海峡危機のウォーゲームでは、日本とグアムに拠点を置く800機の米軍機が破壊される例がみられる。紛争が差し迫った場合、これらの機体をアリューシャン列島に待避させることができれば、中国の弾道ミサイルの射程外になるわけではないが、アダック同様、中国は米国領土に対する攻撃を躊躇するかもしれない。

 第三は核抑止力の強化である。中国は2035年までに核弾頭の数を約1500発に倍増させると予測されており、北朝鮮は弾道ミサイル能力の向上を続けている。中国北部と北朝鮮から米西海岸への大圏ルートは、アリューシャン列島上空を通過するため、ここにミッドコース防衛システムを配備すれば、列島の西端と東端の2地点でミサイルを迎撃するチャンスを得ることができ、核抑止力を強化することができる。

 これまでも海上配備型Xバンドレーダーが配備されたことがあるが、アリューシャン列島に海上あるいは陸上配備型のミサイル防衛システムを展開すれば、アラスカ本土の基地や西海岸の都市に追加の防御を提供することができる。

 第四は、海兵隊の遠征先進基地(EAB)をアリューシャン列島に配備することだ。複数の島に海兵隊のEABO構想にもとづく部隊を対艦ミサイルや対潜水艦戦能力などのシステムとともに配備すれば、列島全体で1,000マイル幅のチョークポイント帯を形成し、敵のアクセスを拒否できるだろう。これにより、北極圏への航行を試みる敵を遅らせ、この海域を通過する米国の船舶を敵の潜水艦から防護する効果が期待できる。中露海軍がともに西太平洋と北極圏に関心を高めているため、対潜水艦戦能力を持つアリューシャン全域のEABは強力な抑止力となる可能性がある。

参考資料:Commander Steve Hulse, U.S. Coast Guard, “Bases on the Aleutian Islands Would Project U.S. Power Across the Pacific,” (January 2025, USNI Proceedings)