ジョン・コンラッド氏が「チョークポイントは新冷戦の焦点」として発表した一稿。トランプ大統領の「地政学」は思いつきではと考える向きもあったが、そうではなさそうだ。「造船業を再び偉大にするための大統領令」を起案しているのはマハニアンの海軍史家、ジェリー・ヘンドリックス元海軍大佐だという。

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 1883年、マハンはグローバルな大国の冷厳な現実を描いた、海を制する者が世界を制すると。彼が語ったのは、艦隊についてではなく、チョークポイント、つまり世界貿易の大部分が通過しなければならない狭い水路のことだ。それらを管制すれば、侵略する必要はない。経済を止め、一発の砲弾も撃たずに軍の海上輸送を制限することができる。過去100年間の大半で、アメリカはこのことを理解していたが、今日では、まるで忘れてしまったかのように振る舞っている。しかし、我々の敵対者はそうではない。

 中国、ロシア、イランは、過去20年間、これらのチョークポイントを影の戦争の管制点に変え、自国に利益をもたらしアメリカを弱体化させるような方法で、世界貿易を静かに変容させてきた。バイデン政権は、この問題に対しうわの空で取り扱ったが、トランプ政権はそれを緊急事態と認識している。そして今、世界の航路をめぐる戦いが本格化している。

誰も気づかなかった危機

 昨夜(3月15日)、トランプ大統領は強い非難声明を発表し、バブ・エル・マンデブのチョークポイントをアメリカ艦船と国際貿易のために再開するため、フーシ派に対する大規模軍事攻撃を開始した。しかし、歴史上の転換点があったとすれば、それはミサイル発射や軍事的膠着状態ではなかった。

 2024年7月、テキサスからイスラエルへ向けた大西洋横断の後、燃料が少なくなったためいつものようにジブラルタルに入港したアメリカ船籍の石油タンカー「オーバーシーズ・サントリーニ(Overseas Santorini)」号の船長による燃料補給の要求が却下されたことこそが転換点だった。

 表向きはアメリカの最も緊密な同盟国の一つであるイギリスは、この事案を軽視し、政府レベルの問題ではないと一蹴した。しかし、一部の海軍関係者、特に大国間競争に目を向ける人々の間では、警鐘は耳をつんざくほどだった。

 これは、海上における新冷戦の決定的なパターンである。アメリカの海洋権益に対する一見些細な侵害は、孤立した出来事、つまり複雑なグローバルシステムにおける単なる商業的な問題として片付けられる。海運業界、特にヨーロッパでは、これらの事故は、規制上の問題や企業の裁量のせいにして、肩をすくめられる。しかし、ペンタゴンの奥深くでは、全く異なる計算になる。

 誰かが分析をしている。なぜなら、歴史はその変化について劇的な宣言をしないからだ。それは、無視された小さな変化の蓄積、つまり、ここでの給油要求の拒否、あちらでの優先港湾協定、そうしたことがゆっくりとした、しかし着実な海上支配の変化につながっている。そして、これらのパターンが無視できなくなる頃には、パワーバランスはすでに変化してしまっているのだ。

 公式には、「Overseas Santorini」に対する給油拒否は危機ではなかった。スターマー英国政府は、それは民間企業の決定の問題だとしていたが、後の調査が示したように、この決定は、親パレスチナの英国議会議員の小さな派閥から出されたものだった。そして、問題の船、「Overseas Santorini」は、単なる商業タンカーではなかった。これは、MARADタンカーセキュリティプログラム(注)の下で米軍が指定した戦略的な船舶だったのだ。かつてなら、このような事件は外交的な騒動を引き起こしただろうが、バイデン政権は問題を放置したのだ。

 注:MARAD(海事局)タンカーセキュリティプログラム(TSP)は、米国を拠点とするタンカーの中核船隊が国際貿易で競争力のある運用を行い、液体燃料に関する米国のサプライチェーンの回復力を強化するもの。TSPは、武力紛争時や国家非常事態時に軍隊に燃料を供給するために使用できる10隻の米国籍タンカーの確実な傭船を国防総省に提供する。

 7か月後、同じような事案が発生したが、その時は反応が違った。ノルウェーのバンカー会社ハルトバック・バンカーズが、トランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談に抗議して、米国関連艦船への燃料補給を拒否すると発表したとき、ホワイトハウスはすぐに反発した。数時間以内に、ノルウェー大使館は、米国の船舶がバンカリングサービスに無制限にアクセスできることを保証する声明を発表した。

 この対応の違いは驚異的だった。ノルウェーが数時間で問題を解決できるのなら、なぜ英国は全く対処できなかったのだろうか?その答えは単なる1隻の船の問題ではなかったのだ。これは、世界的なチョークポイントに対する影響力の試練であり、バイデン政権下のアメリカは第1ラウンドで敗退していたのだ。

チョークポイントの武器化

 チョークポイントは、軍事計画立案者にとっての戦略的な考慮事項だけではなく、経済力の断層線であり、石油、食料、原材料の動きを誰が支配するかを決定する作用点である。

 中国はこれを理解しており、何十年にもわたって、港湾の株式を体系的に取得し、長期的な戦略的取引を削減し、その経済的支配を強化できる海軍を構築してきた。イランとロシアもそれを理解している。脅威は単なる封鎖ではなく、海上輸送の混乱、減速など選択的に実行できるものからもたらされる。もし国が自由に商品を移動できなければ、その国の経済は交通レーンを支配する者に翻弄されることになる。

 一方、アメリカは海軍の優越性だけで十分だと確信し、商船隊を衰退させてしまった。商業海運は常に中立的な市場原理の下で機能するという仮定は、現実政治の重みの下で崩壊しつつある。つまり、次の世界的な危機は、ミサイル攻撃や海戦から始まるのではない。戦略的な水路が寸断されたり、規制や敵対的な港湾政策が遅々として進まなくなったりして、貿易ルートが機能的に使えなくなったときに始まるのだ。

貿易に対する静かな戦争

 中国はパナマ運河の両端の港湾を支配し、スエズ運河、ボスポラス海峡、イギリス海峡のターミナルに大きな利害関係を保有するようになった。紅海の入り口に海軍基地を設置し、重要な回廊を争いの海域に変えた。

 太平洋では、世界で最も重要な航路の1つであるルソン海峡は、中国海軍、沿岸警備隊、海上民兵によってほぼ常に監視されている。

 世界の石油の20%が通過するホルムズ海峡は、イランがいつでも閉鎖できるところだ。東シナ海、黄海、日本海を結ぶ重要な中継点である朝鮮海峡は、北朝鮮の常軌を逸した指導部のミサイル射程内に十分収まっている。

 同時に、パナマの影響を強く受けている国際海事機関(IMO)は、中国に不釣り合いなほど有利な方法で世界の海運規制を再構築し始めている。バイデン政権は、NSC(国家安全保障会議)/NEC(国家経済会議)の海事デスクを閉鎖したが、この問題をほとんど無視した。トランプの顧問たちは、これを偽装した経済戦争と見ている。

チョークポイント:トランプの世界的海上反攻

 ワシントンでは、ゲームは急速に展開している。バイデン政権は、世界の海運業を背景の懸念事項として扱い、自由市場物流のもつれを自主規制に任せた。一方、トランプ政権は、全く別のもの、つまり戦場として見ている。チョークポイントをめぐる争いは、もはや理論的なものではない。それは今、港湾の買収、規制の締め付け、環境政策を装った経済戦争で展開されているのであり、今回、ホワイトハウスは手をこまねいていない。

西棟(ウェストウイング)の海事作戦室

 トランプの国家安全保障会議(NSC)には、新たな戦力としてジェリー・ヘンドリックス(注)を送り込んである。彼は、マハン戦略、つまりアメリカの過去の海洋支配を形作ったドクトリンに深い理解を持つ海軍史家だ。ヘンドリックスは、論文を書くのではなく、マイク・ウォルツ国家安全保障担当補佐官とピート・ヘグセス国防長官に選択肢を提供し、大統領が「造船業を再び偉大にするための大統領令」を起草するのを助けるためにそこにいるのだ。

注:Jerry Hendrix氏、1966年生まれ、元米海軍大佐(2014年退役)、元海軍歴史遺産コマンド(Naval History and Heritage Command (NHHC) )所長、歴史学修士(ハーバード大学)、同博士(英キングスカレッジ)

 この文書は、署名されれば、米国の海事政策における数十年で最大の転換となる可能性がある。すでにリークされた詳細な草案から、世界の海運ルートに対する中国の経済的支配を打破することを目的とした攻撃的な戦略であることは明らかだ。これは、アメリカの造船所の再建だけの問題ではなく、世界で最も重要な水路に対する北京の支配を排除するために設計された国際的な反撃である。

 大統領令の核となる任務は単純で、同盟国にどちらかの側につくよう強制することだ。新しい指令の下で、国務省は英国、シンガポール、台湾、エジプトなどの条約締結国に強く頼り、中国製の船舶や貨物取り扱い機器に関税と貿易制限を課すことになる。その考えは、港湾の所有権と物流の締め付けを通じて世界貿易を操作する中国の能力を麻痺させることである。同盟国へのメッセージは明確だ。参加しなければ、米国の経済的報復のリスクを冒すことになる。

 同時に、大統領令は、新たな関税と港湾使用料からの収入を直接米国の造船業の復活に注ぎ込み、次の世界的な危機が襲ったときに、米国が外国の支配する艦隊に頼らずに商品を輸送する船を確保できるようにする。最も物議を醸す条項であるカナダとメキシコを経由して北米に流入する外国貨物に対する港湾税は、米国の港湾から貿易を奪ってきた抜け穴を塞ぐことを目的とした動きだ。これは単なる保護主義的な策略ではない。これは警告射撃です。そして、この大統領令はかつてないほどリスクが高まった瞬間に出されることになる。

真の最前線:連邦海事委員会は戦争に突入

 政策がハンマーだとすれば、規制はメスだ。金曜日(3月14日)、連邦海事委員会(FMC)は、世界の海運の地図を塗り替える可能性のある調査を開始した。何十年もの間、FMCは官僚的で海運会社間のニッチな紛争に焦点を当てた動きの遅い規制当局だった。しかし、バイデン政権下でその規模は大幅に拡大され、トランプ政権下では米国の港湾だけでなく、世界の貿易エコシステム全体を監督する権限が与えられている。

 その新たなターゲットは、チョークポイントを兵器化する外国政府や企業であることは言うまでもない。調査は、英仏海峡、マラッカ海峡、北極海航路、シンガポール海峡、パナマ運河、ジブラルタル海峡、スエズ運河の7つの世界で最も重要なチョークポイントに焦点を当てている。これらの回廊はいずれも潜在的な引火点であり、地政学と経済の影響力が絡み合い、一夜にして世界の商業を麻痺させる可能性がある場所だ。

 トランプ政権下でのFMCの任務は、外国の規制、法律、企業政策が、いかにしてアメリカの貿易に人為的な制約を作り出しているかを特定することだ。同委員会は、海運会社の幹部、ばら積み貨物事業者、港湾当局、国家安全保障当局者から証言を集めており、戦略的な港湾作業の遅延、隠れた手数料、中国とロシアの利益に重要な貿易レーンへの優先的なアクセスを認める裏取引など、意図的な貿易混乱のパターンを探っている。

次に来るもの

 今のところ、FMCの調査は事実調査の段階にあり、厳密にはFMCは無党派だが、間違いなく潜在的な結果は甚大なものになるだろう。委員会が外国政府または企業が意図的に米国の貿易を制限していると判断した場合、委員会は次のような報復規制を発行する権限を持っている。

・経済戦争に従事している国に登録されている船舶の米国の港への入港を禁止する。

・制限的なチョークポイント慣行に参加する海運会社に対して罰則を課す。

・特定の外国が管理する港を通過する貨物に直接関税を課す。

 このような強力な措置は、現代の海運史では見られなかったものだ。しかし、トランプのホワイトハウスは手遅れになる前に今戦う方が良いと賭けているようだ。

チョークポイント:新冷戦のプレッシャーポイント

 何十年もの間、世界貿易は大きすぎ、権限が分散されすぎ、アメリカが手を入れるにはあまりにも基幹的で失敗が許されないと考えていたが、この仮定はすでに破綻している。世界の貿易ルートをめぐる戦いは、フーシ派過激派に対する軍艦やミサイルの発射だけでなく、経済的圧力、港湾買収、規制の締め付けを通じても、すでに起きている。だからこそ数十年ぶりに、米国は攻撃を仕掛けるのだ。

 トランプ政権の計画は繊細でも、礼儀正しくもない。しかし、久しぶりに戦略、秘密の戦略といえるものだ。船主や貿易アナリストは、トランプの関税ニュースで忙しすぎて、何が起こっているのかを見落としているのだ。彼らは、FMCが米国国内から遠く離れた外国で活動を拡大していることについて報告し損ねている。彼らは、ホワイトハウスの新しい海事デスクが、全米経済会議の貿易学や経済学の教授によって運営されておらず、国家安全保障会議の海軍史家によって運営されていることを報告し損ねている。海軍と国家安全保障が主導権を握っている。海運や貿易ではないのだ。

参考資料: John Konrad, “Chokepoints Are The Focus Of A New Cold War,” (March 16, 2025, gCaptain.com)