中国の特使が北朝鮮を訪問しました。当初、中国は米韓合同軍事演習と北朝鮮の核・ミサイル開発を同時に停止させる「二重凍結」を提案するのではと報道されていましたが、結果的には「不発」でした。そもそも、北朝鮮は、自身の核は「自衛の核」であり米国の「暴政の核」と一緒にすべきではないと中国の「同時停止」の考え方を批判していましたから、仮に中国が提案したとしても北朝鮮がすぐに応じることはなかったでしょう。

 この特使の帰国を確認したかのようにトランプ米大統領は、北朝鮮のテロ支援国家再指定を発表し、中国企業等に対する「二次的制裁」を含む大規模な追加制裁を科してゆくことを発表しました。北朝鮮に対する制裁強化ですが、同時に中国への圧力強化を迫ってゆくとの姿勢が明確になってきました。

 そもそも北朝鮮の「エンドステート」は、①ICBMの実戦配備による核保有国としての地位の確認と②体制維持の保証を米国から得ることであると考えられます。これに対し、米国の立場は②に関しては再三認める方針を明らかにしていますが、①に関しては決して受け入れることはないと思います。

 我が国としても、「二重凍結」による北朝鮮の核・ミサイルの「開発停止」では将来にわたって北朝鮮に恫喝され続けることになるわけですので、ここはどうしても「廃棄」までもってゆくのが日本としてのエンドステートでなければなりません。この辺りのエンドステートのすり合わせは、先のトランプ大統領のアジア歴訪でなされたはずです。

 今取り組まなければならないのは、北朝鮮のエンドステートであるICBMの実戦配備を断念させ、日米(韓)のエンドステートまで下がってこさせるための制裁強化と外交上の努力であることは論を待ちません。そのため、北朝鮮の核・ミサイル開発を支援している人、モノ、金、技術の流れの解明と、それに基づく関係国の制裁強化、そして今後の制裁強化に備えた海上で北朝鮮船舶を検査できる態勢の構築などに全力を挙げることだと思います。

 当然のことですが、時間の経過と制裁の強化により、北朝鮮の内部崩壊等の不測事態の可能性が高まり続けますので、在韓邦人の安全確保策、流出する海上難民(武装している可能性)対策に全力を挙げることが不可欠です。「フェーズ0」の取組みとして一刻の猶予も許されないと思います。

 2か月以上挑発行動がないことをもって、北朝鮮が態度を変化させる兆候ではないかなどと解釈する材料は何もないと思います。今こそ今後のエスカレーションに対処できるよう、粛々と準備を進めるべき時だと思います。(2017年11月27日記)

 さて、前回述べたような作戦の大まかな流れが空間的・時間的に描ければ、作戦を具体的に組み立てることになります。その際の作戦の流れ、構成を形作る「文法」とも「構文」ともいえるような基本的な考え方として、「フェーズ」、「分岐策」及び「事後策」、「作戦休止」等があります。これらを組み合わせることにより、複雑な作戦に柔軟性を持たせつつ組み立て、作戦計画の理解と維持管理を容易にし、実行可能性を向上させることができることになります。

 もちろんこのような考え方は作戦幕僚にとっては不可欠な考え方ですが、本メルマガの読者に実際に作戦計画を立案する方がいるとは思えませんから、以下の説明は軍事作戦を外から眺めるときにその意味などを読み解くヒントやポイントとなるものとして理解して頂ければよいと思います。

▼フェーズ(Phase)

 「フェーズ」とは、共通の目的のために部隊の大部分が関連した行動を行う明確に区分された作戦の段階をいいます。本連載の第1回で説明した「6フェーズモデル」は、この典型例であり、各フェーズは、全体の作戦の展開にあわせた時間、場所、目的により区分され、それぞれ開始、終了時の状況が定義されます。このように区分することで、複雑な統合作戦における各部隊の行動を関連づけ、同期化させることができ、作戦の柔軟性と一貫性を保つことができるようになるのです。

 そもそも、フェーズは、単一の作戦では達成できない目標を達成するために必要となる複数の作戦を組み合わせる中で、戦役、作戦の大きな流れを段階的に区分したものです。したがって、フェーズに区分しない場合、戦役や大規模な作戦は、多数のまとまりのない細分化された作戦の集合体となりかねず、作戦のテンポや一貫性を保つのが困難になるおそれがあります。

▼フェーズ区分の留意点

 一般的に、フェーズは決まった時間というより実際の作戦状況により区分、進行するものです。例えば作戦資材の補給は、作戦状況ではなく、主として補給速度や輸送能力など時間的要因により規定されます。このような場合、部隊の展開や補給など時間的に規定される要因と敵との関係で変化する作戦状況によって規定されるフェーズはズレが生じがちなので調和をとる必要があります。さらには、イラクの自由作戦での動員計画を段階的に行わざるを得なかったような外交的考慮、支援国の政治要因がフェーズの移行を左右することがありうることも考慮しなければならないと思います。

 さらに、効果的なフェーズ区分を行なうことにより、統合部隊が作戦限界点を回避できるようにすることも重要なポイントです。エンドステート達成までに作戦資材が不足し、部隊の継戦能力を維持できない場合、作戦をフェーズに区分し、その間に必要な作戦の休止期間を挟み込まなければなりません。このような作戦休止を行うことで、統合部隊の戦闘能力の再構築が可能となりますが、これは同時に敵にとっては好機となり得ることに留意する必要があります。この作戦休止については後述します。

 フェーズの移行は、その条件、場所、時間等を明示し、作戦の焦点が明確に移行するように計画しなければなりません。フェーズが移行する時には、作戦目標、追求すべき作戦効果、そのための手段、優先順位、指揮関係、兵力配備、さらには作戦地域そのものの変更を伴うことも多く、部隊が脆弱な状態に置かれることになりますので、具体的な手続きやリードタイムを十分に確保しておく必要があります。

 フォークランド紛争においては、上陸作戦の開始時期は政治的に決定されることとされましたが、このようなことはごく普通のことだと思われます。このため、政治的な手続きに要する時間を十分に考慮して先行的なプロセスを行ない、作戦の流れに支障を与えないよう考慮されるべきことは当然として、それに加えて政治的な決定プロセスそのものの秘匿等について十分な配慮が払われるべきです。

▼分岐策、事後策、決心点

 フェーズ区分が決まったら、次は、「分岐策」と「事後策」を作戦の流れの中に組み込みます。「分岐策(Branches)」とは、基本の計画の中に状況変化時の作戦の選択肢として組み込まれるものであり、敵の行動を含む大きな状況の変化、友軍の能力・資材の状況、天候の変化等への代案を盛り込むことで計画に柔軟性を与えるものです。

 一方、「事後策(Sequels)」は、勝利(成功)、敗北(失敗)、膠着等という実施中の作戦の結果を受け、それに基づくその後の作戦について計画したものです。分岐策及び事後策が決められたら、それぞれ、どの時点で選択肢の決定と発動を決心するかを決めなければなりませんが、これを「決心点(Decision points)」といいます。

 指揮官のこれらの選択肢の決定こそ、作戦レベルの意思決定プロセスの真価を発揮すべき場面といえます。この意思決定を支援するため計画段階から「決定支援マトリックス(DSM:Decision Support Matrix)」を作ります。

 このマトリックスは、簡単にいうと、選択肢とその決定のための条件、決心点のタイミングの幅(最早~最遅)、決心するために必要な材料である優先情報要求(PIRs: Priority Intelligence Requirements、決心のため敵に関して知らなければならない事項)及び友軍情報要求(FFIRs: Friendly Force Information Requirements、決心のため友軍について知らなければならない事項)等をまとめたものです。このマトリックスの妥当性をテストするのが後に説明するウォーゲームの大きな目的のひとつとなります。

 また、PIRで要求する敵に関する情報は、敵に察知された場合、それが欺瞞に逆用されることも多いと考えられますから、欺瞞を看破するための方策(後の連載で解説)をとるとともにDSMだけに依存しすぎることも戒められるところです。

▼作戦休止

 指揮官は、敵に対する主動(相手に自分が対応させられるのではなく、先手を打って相手を動かすこと。中心となって導く「主導」と区別。)を獲得し、維持するために積極的な作戦を展開すべきですが、時として後方支援上の制約や兵力不足により実行できない場合が生じ得ます。このような場合に、作戦の持続性が尽きる前に主動の立場を保持しつつ、潜在的な作戦限界点に達しないよう「安全弁」の役割として作戦を休止することがあります。これを「作戦休止(Operational Pause)」といいます。

 作戦休止は、通常は戦闘力の再生(休養)あるいは次のフェーズのための兵力の温存のために計画されます。計画的な作戦休止を行うことにより、統合部隊指揮官は部隊を効率的に運用できるとともに、作戦全体に同期のズレが生じていれば修正しやすくなるメリットがあります。

 作戦休止の計画に当たっては、無駄な休止とならないよう効率性を考慮しますが、同時に部隊の継戦能力と戦闘効率に関する余裕を切り詰めすぎないよう注意しなければなりません。余裕のある計画を立てることで、休止タイミングに柔軟性を与え、緊急時においても部隊を不必要に危険に曝すことなく休止タイミングを利用して迅速に作戦を切り上げられる可能性があります。

 作戦休止の最大の欠点は、戦略的あるいは作戦上の主動を喪失するリスクを冒すことです。作戦休止を敵に察知された場合、敵は好機とばかり、休止を妨害したり、主動を奪うために温存していた戦闘力を一気に発揮させる可能性に留意しなければなりません。このため、休止を極力少なくなるように計画することは統合部隊指揮官の責務といえますが、複数の構成部隊間の休止を交互にとらせたり、作戦テンポを調整することで、統合部隊の主要な部分は敵を圧迫しつつ、一部は休止させるという方式がよくとられます。

▼決勝点と作戦系列を決める

 フェーズ区分や分岐策、事後策等の組み込みが終わると、作戦全体の流れをストーリーボードのようにイメージでき、分岐策等で枝分かれした線表として視覚化できるようになるはずです。この流れの中で、ある地点の確保や事象の生起により友軍が敵に対して明白な優位を獲得するか、望ましい効果や目標を達成することになる重要な場面があるはずです。このような使命の達成を左右する場面のことを「決勝点(Decisive points)」といいます。

 決勝点の例としては、以下のようなものがあります。

① 地理的地点:

シーレーン上のチョークポイント、高地、市街地、情報・通信の結節点

大量破壊兵器関連施設、航空基地、指揮所、重要な境界線、空域 等

② 重要な事象:

航空・海上優勢の獲得、上陸地点の確保

人道支援活動における補給路開設、主要な指導者の信頼獲得 等

通常、作戦地域内には、運用可能な兵力により攻撃、防護等できるよりも多数の決勝点が存在するものです。したがって、計画作業においては、以下のような観点から、優先順位を決め、資源を投入すべき決勝点を選定することになります。

① どの決勝点が敵の重心を攻撃する最良の機会をもたらすか?

(重心に関する必須能力、必須要件、決定的脆弱性の分析を活用)

② どの決勝点が友軍の行動の自由をもたらし能力を発揮しうるか?

③ どの決勝点が友軍の作戦リーチを拡張するか?

④ 決勝点の情報、政治、経済、社会、住民生活等への影響度はどうか?

▼作戦系列

 一般には「シナリオ」等と呼ばれることが多い作戦の構想やその推移予測ですが、作戦計画の上ではここで述べる「作戦系列」と後の連載で説明する「作戦アプローチ」がそれに該当します。

 まず、「作戦系列(LOO:Lines of Operation)」とは、目標達成に至る作戦の流れを、決勝点や結節となる点に対する作戦行動を時系列的に示したものです。同時に複数の作戦系列が存在する並行作戦もありますが、通常は一連の作戦行動から構成されています。大規模な戦闘行動を伴う作戦は、基本的に作戦系列を用いて計画され、各レベル、各構成部隊の指揮官は、エンドステート達成のため、それぞれの担当する作戦行動を作戦系列に沿って同期させることになります。

 一例として、展開基地の設置から、敵国の首都の確保を作戦目標とする作戦の概略の作戦系列を示すと次のようになります。①~⑤のそれぞれが決勝点でもあります。

 ① 展開基地の設置と運用 ② 進入点の確保 ③ 港湾及び空港の確保と運用 ④ 重要な地点の確保 ⑤ 首都への進入路の確保 ⑥ 首都の確保(作戦目標)

▼非軍事活動系列

 一方、戦闘行動を伴うような作戦における作戦系列に対して、主として非軍事的な活動を主体とする民政支援のような活動の場合には、「非軍事活動系列(LOE:Lines of Effort)」と呼ばれます。これは、多くの非軍事的要因が関係する作戦において、支援分野別に、任務、効果、エンドステートを関連付けたものです。

 非軍事活動系列は、軍事力が治安、司法、経済、社会基盤等をいかに支援できるかを可視化するものであり、これにより、統合部隊として統一指揮が困難な多国籍部隊や民間組織が関与している作戦(活動)の計画作成において、作戦の一貫性を確保しようとするものです。以下にその一例を示します。

▼作戦系列と非軍事活動系列の同期化

 統合部隊の各レベルの指揮官は、必要な場合にはそれぞれが実施する軍事活動を非軍事活動系列に同期させるよう努力しますが、作戦によっては、非軍事面である必須サービスの復旧を図って住民の不満を解決しないと軍事作戦への協力が得られない場合等が考えられます。このような場合は、軍事面と非軍事面の連携は必須ということができ、作戦系列と非軍事活動系列を計画的に連携、同期化させる必要が出てきます。その際には、非軍事活動系列においても、作戦系列で設定されている目標、決勝点、重心と結びつけられるものがあるため、それらを「共通項」として、計画作成や作戦の実行段階において両系列を関連づけることになります。

 理屈はこのようになるわけですが、イラクの戦後復興を支援する米国をはじめとする各国の活動を見るとわかるとおり、その成果は分野ごとまちまちであり、非常な困難を伴っていることは御存じのとおりです。米国は、このような困難な経験をもとにして、ここに説明するような現行のドクトリンを作り上げてきたと言えます。

※本稿は拙著『作戦司令部の意思決定』の要約抜粋で、メルマガ「軍事情報」(2017年10月~2018年3月)に「戦う組織の意思決定入門」として連載したものを加筆修正したものです。